いたずらフィガロ

むかしのアメリカのマンガについて。

レアビットとロッキングチェア

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 1905年12月23日『ニューヨーク・イブニング・テレグラム』の「レアビット狂の夢」です。

 

 「その椅子はロッキングチェア(walking rocker)ですから、ゆれますので気をつけてくださいね」「大丈夫だよ、ぼくはこの椅子とても気に入ってるんだ」という、夫婦の会話ではじまります。

 

 2コマ目、はやくも妻が不穏なことを言っています。「気をつけないと家じゅうを歩きますから」。ウォーキング・ロッカーがウォーキングするというわけです。夫は、冗談だと思ってるのか、聞いていないのか、妻の言葉をまじめに受けとっていません。「ゆれるの好きなんだよね、どうしてもゆれたくなるんだよ」。

 

 するとロッキングチェアは、この男性をすわらせたまま、テーブルからどんどん離れていきます。しかし男性は新聞を読むのに夢中で、そのことにぜんぜん気づいていません。

 

 ロッキングチェアはリビングを出て、べつの部屋から台所に入り、そのあと外に出ます。男性はその間、「なになに、大統領による強奪の掌握...保険会社によれば、大統領は自身の辞任にやぶさかでない...とはいえそれは、辞任すべきかどうかもっとよく考えてからのことだ、いまはまだ辞めるつもりはない、ということであるが、管財人のなかには、大統領に辞任を決心させるべきだと考えている者もいる...」と、大統領の汚職をめぐる記事を読みふけっています。

 

 ロッキングチェアは道路や公園を横切り、交通事故を起こしもせずに、人びとの注目を集めつつ、最後は港にやってきました。そこで動きを止めるかといえばそういうわけでもなく、ロッキングチェアはそのまま海に落ち、そこでようやく男性は新聞から手をはなします。

 

 この夢を見ていたのは奥さんのほうでした。「ああ! 眠っていたわ! レアビット食べたのかしら? ひどい夢だったわ!」。夫のほうはといえば「そりゃいいや。ぼくはサイラスのレアビット狂を読んでいたところだったよ!」と、自己言及的な発言です。言葉遊びと自己言及という、マッケイお得意のネタがふたつ入ったエピソードでした。