いたずらフィガロ

むかしのアメリカのマンガについて。

リトル・ニモと竜のしっぽ

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 1906年7月29日『ニューヨーク・ヘラルド』の「眠りの国のリトル・ニモ」です。

 

 これまでの「リトル・ニモ」は、Little Nemo in Slumberland とタイトルが描かれたコマがいちばん上にあって、その次に①と記してあるコマが置かれていましたが、このマンガからそのタイトル専用コマがなくなりました。いちばん上のコマが①のコマになっています。

 

 タイトル専用コマ(非①コマ)では、そのエピソードの要約とか結末の暗示とかが描かれていて、そこにニモはおらず、お姫さまや王様や家来たちがニモについて語っていました。それは作中人物がちょっとだけ引いた視点でニモの行動を捉えるコマだったように思います。いわばニモの物語に対して批評的なスタンスをとることができた。

 

 上のマンガ以降、「リトル・ニモ」はタイトル=①コマになってしまって、すべてがニモの視点から捉えられる世界の描写となり、他方、作中人物がニモのいないところでニモのことを考える場面はなくなってしまいました。物語世界のなかの視点の切り替えが失われたということで、個人的にはそれは物語の厚みみたいなものが減じたように思うので、ちょっと残念です。

 

 ただまあ、「リトル・ニモ」は絵の見応えがあるのでそれで十分だという気もします。上のマンガでは、ニモとお姫さまが竜の口のなかに座って観光していて、この絵自体がおもしろいですよね。この椅子は、竜のよだれで濡れたりしないのかな。

 

 ②のコマの花畑は不気味な絵です。お姫さまは「ハニーのつぼみよ。甘い香りじゃない? これ枯れないのよ」とニモに言ってますが、実際にこんなのあったら甘い香りとかどうでもよくておれは怖い。枯れないというのも、なんか無理やり生き長らえさせられてるようで、この夢の国の怖さを勝手に感じています。

 

 ニモたちが観光中、フリップが現われました。そういえば今までどこにいたんだっけ...あ、そうだ、ニモがお姫さまとキスしてたんで、フリップはおじさんの力で朝日を呼び寄せ、ニモを目覚めさせたんでした。そのあとはぶらぶらしてたんでしょうね。

 

 フリップはニモたちを見つけると、くわえていた煙草を竜のしっぽに当てるといういたずらをします。すると、ずっと向こうにある竜の頭が、ものすごいスピードでフリップのほうにやってきて、ニモたちは竜の口から落ちそうになってしまいます。

 

 竜は口を大きく開けていて、これはもちろん口のなかにニモたちが座っているからですが、でも夢オチ直前・⑤のコマはフリップを食べようとしているようにも見えます。竜の攻撃性を感じます。

 

 ②のコマで竜は横向きで、③と④のコマでは竜の後頭部しか見えないので、物語が進むにつれ、ニモや読者は竜が口を開けていることの恐怖感を忘れていき、この竜は人を襲わない安全な竜だ、この観光は大丈夫だとすこし安心しています。でもフリップの仕業により竜の凶暴な姿があらわれて、驚いてしまいますね。風景の色が③・④と⑤とで変化するのも、このショックを効果的にサポートしていると思います。