いたずらフィガロ

むかしのアメリカのマンガについて。

レアビットと片すみのやせた男

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 1905年4月29日『ニューヨーク・イブニング・テレグラム』の「レアビット狂の夢」です。

 

 電車内でしょうか、ふたりの男性が新聞を読みながら座っています。そのうちひとりは片すみに座っていて、読者のほうを向きながら「すみっこに座るの好きなんだよね、自分のまわりでやかましく歩かれなくてすむでしょ」と言っています。

 

 たしかに、わたしの経験を振り返ってみても、電車の乗客は片すみが好きですね。まず端から埋まっていきますよね。他人とはなるべく距離を置きたいという心理が働いているからだと思います。都市社会、大衆社会という感じですね。この男は始発から乗ってきてるのかな。いつも電車に乗ってる人のようなので、通勤客でしょうか。

 

 上のマンガを見ると、すこし空席があるので、もしかしたら満員電車にならない程度には電車がたくさん走っているのかもしれません。20世紀初頭には鉄道のインフラがだいぶ整備されているということなのかな。

 

 「片すみが好き」と語るこの男が読む新聞は『ニューヨーク・イブニング・テレグラム』です。つまりこのマンガの掲載紙ですが、これは夕刊なので、上のマンガは平日午後の様子を描いていることになります。朝ではないということですね。この時代も、朝は通勤ラッシュがあったんでしょうかね。

 

 2コマ目で乗客が増えてきます。太った男性ですね。「こんにちは、バルツィンガーさん(Mrs. Baltzinger)」と、これまた太った女性に挨拶をしています。バルツィンガーという名前はなんとなくドイツ語っぽいですけれど、その後のふきだしにもドイツ語っぽい綴りの言葉が見られるので、彼らはドイツ系でしょう。ニューヨークにやってきた移民でいちばん多いのがドイツ系です。

 

 2コマ目、よく見ると、背景が傾いています。やや右上がりになっていて、コマが進むにつれてこの傾斜がどんどん急なものになっていきます。片すみの男は「ブロードウェイにこんな坂道あったっけ...」とふしぎに思いながら、どんどん圧力を受けていきます。6コマ目では「坂じゃなくてこれもう山だろ」と、電車から出たがっている様子です。でもたぶん、圧力が大きいのではさまれて出られないんでしょう。

 

 7コマ目ではついに90度傾いています。山でもなく崖ですね。片すみの男は下敷きの男になり、「助けて、助けて!」と叫んでいます。最後の OH!!! が横向きですね。一方、太った人々はわりと平気で、「だれか助けて助けてって言ってるように聞こえるんですが、なんでしょうね?」「そうですよね、苦しんでるみたい」と、なんか聞こえるけれどよくわからんということをドイツ語訛りで会話しています。隣で新聞を読む男は、状況の変化には完全に無関心ですね。

 

 ちなみにマッケイ自身は、身長が5フィート5インチ(約165センチ)、体重が130ポンド(約59キロ)だったそうで、日本ならまあそういう成人男性はふつうにいますが、欧米なら小柄でしょう。実体験をもとにしたマンガなのかも。