いたずらフィガロ

むかしのアメリカのマンガについて。

レアビットと長い首の男

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 1905年5月20日『ニューヨーク・イブニング・テレグラム』の「レアビット狂の夢」です(ちょっと画質が悪いですが)。

 

 「お、やってきたぞ。だれが大もうけするかな。勝つか負けるか、あと少しですべてがはっきりする」と、男が言っています。地平線からコマの枠線の右下まで、直線が何本かあって、また他のコマをざっと見てみると、馬が走っていますので、ここは競馬場ですね。

 

 2コマ目、男の視線の向こうから馬が土煙を上げてやってきます。「あ! パイフェイス(Pieface)が先頭だ、やっぱりそうだと思ったよ、このレース勝てるぞ!」と言う男の首が、少し伸びています。で、これも他のコマを見てみればすぐわかりますが、この男の首はどんどん伸びていきます。

 

 伸びる首のすぐ先にはつねに一頭の馬がいます。これがパイフェイスでしょう。馬たちが物語空間内の奥から手前に走ってきているのに対し、男の首は画面のいちばん手前で、まるでゴールテープのように待ち構えています。パイフェイスが観客席から遠いほうを走っていたのが運の悪いところで、男はパイフェイスに没頭するあまり、首がコマの端から端までを完全に横切らなくてはなりませんでした。

 

 パイフェイス以外の馬たちは男の首に激突し、男は「わあ!」と大きな字で叫んでます。ふきだしはありますが、男の頭がどこにあるかはちょっとわからないですね。その後は男が「なんだ!? おれの首が!」「息ができない!」と、首を長くしたまま叫びつづけます。長く筋張った首と、馬の巨体が絡まりあって、異様な光景です。

 

 英語で「のるかそるか、一か八か」という意味の言葉に neck or nothing という表現があります。首の差で勝つか、さもなくば無一文か、というのが由来になっているのでしょうか。しかし上のマンガの場合は、首によってレースを台無しにしたわけですので、どちらかというと neck and nothing というのがふさわしい感じですね。