いたずらフィガロ

むかしのアメリカのマンガについて。

イエロー・キッドとバルモラル城

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 1897年2月7日『ニューヨーク・ジャーナル』の「イエロー・キッド」です。

 

 イエロー・キッドたちは緑ゆたかな場所にきています。芝生のうえで踊ったりしゃべったりしてます。画面の奥のほうには看板が立てられていたり小屋があったりで、そのうしろに木々が生いしげり、画面左上には城の塔が旗をなびかせています。そして、これらすべてを雄大な山が取り囲んでいます。

 

 キャプションには「バルモラル城にて:イエロー・キッド記念パーティー」とあります。イエロー・キッドたちはさいきん世界一周の旅をはじめたのですが、この日はバルモラル城にやってきたのですね。バルモラル城とはスコットランドにある英国王室の休暇地です。

 

 じつはあまり目立っていないのですが、ここにはヴィクトリア女王と、皇太子のアルバート・エドワードもいます。ヴィクトリアは画面右側で、こどもたちに囲まれながら踊っています。足下に剣がふたつ重ねてあるので、剣舞でしょうか(画面の奥にも剣舞を披露する人がいます)。ヴィクトリア女王のダンスは勇ましすぎて、王冠が頭からすこし浮いています。

 

 アルバート・エドワード、のちのエドワード7世は、やはり王冠をつけて画面左側に立っています。すこしお腹を突き出したような立ち方ですね。目がすわっているようにも見えますので、もしかしたらスコッチ・ウィスキーを飲みすぎてまっすぐ立てないのかもしれません。こどもが「馬跳びやりませんか」と皇太子に話しかけていますが、はたしてできるのか。

 

 たくさんのこどもたちがタータン・チェックの服を着ているなか、イエロー・キッドはいつもの黄色い寝巻きです。チェック柄だと文字が読みにくいからでしょう。寝巻きには「ねえ! ボクもヤギも見事にかっこいいスコットランド人だよね。湖上の美人(de lady of de lake)はぜったいボクに夢中になるよ。ヤギはロデリック・デュー(Roderick Dhu)のまねをしてるけど、デューというよりダメ(Roderick Dont)というべきかな」とあります。

 

 「湖上の美人The Lady of the Lake)」とは、19世紀前半に活躍したスコットランドの詩人ウォルター・スコットが、1810年に刊行した物語詩です。ロデリック・デューはそれの登場人物ですね。イエロー・キッドはスコットランドのネタを披露しているわけです。詩を持ってくるあたり、プレイボーイの片鱗が感じられます。

 

 タータン・チェックのキルトのほかにも、ヤギの足下に生えているアザミや、ヘザーやブライヤといった低木、それにバグパイプやスコッチ・ウィスキーなど、スコットランド的なものが絵のなかにちりばめられています。一方、王室の庭園にはふさわしくないような看板やプラカードも描かれ、たくさんの文字が絵の空間を埋め尽くしています。

 

 真ん中の、八つのベルも気になります。下の看板に「スコッチ・ウィスキー」の文字があるので、アーサー・ベル&サンズ社(Arthur Bell & Sons:Bell's Whisky - Home)のウィスキーのことを指しているのかな(でも八つなのはなぜなのか)。看板には「バター・スコッチ」の文字もあります。こどもも楽しめますね。「フリー・ドリンク」と書かれたテントにこどもたちが殺到しているのはそのためでしょう。