いたずらフィガロ

むかしのアメリカのマンガについて。

イエロー・キッドとブラーニー城

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 1897年2月14日『ニューヨーク・ジャーナル』の「イエロー・キッド」です。

 

 スコットランドのバルモラル城のつぎは、アイルランドのブラーニー城です。アメリカの国旗とならんでいるアイルランドの旗には黄色いケルティックハープが描かれていて、視線をそのまま下のほうに動かしてくると、芝生のうえでおじさんがハープを奏でています。

 

 イエロー・キッドは「おじゃましてまーす。こんな黄色い服を着て先祖の地にやってくるなんて危ないことは、まえはぜったいやらなかったけどね」と言ってます。イエロー・キッドがアイルランド系の人ということがわかります。黄色い服は好ましくないんでしょうかね。イスカリオテのユダが黄色い服を着ていることが多いそうですし、また同時代、ロンドンで刊行されていた『イエロー・ブック』の退廃的なイメージもあるかもしれません。

 

 イエロー・キッドが寄りかかっている豚は、黒猫と話をしています。猫が「キルケニーの猫二匹にはぜったい勝てるぜ」と言うのに対し、豚は「おまえはアイリッシュシチューだろ」と返事をしていますね。キルケニーとはビールが有名なアイルランドの都市で、キルケニーの猫二匹のけんかを歌った詩がマザーグースにあります。

 

 イエロー・キッドの肩に乗るオウムは、「気をつけろミッキー、おまえのいとこが殴り掛かってくるぞ。犬が防いでくれてるがな」とイエロー・キッドに注意を促しています。イエロー・キッドのいとこ登場! 白いシャツに赤いサスペンダーの少年ですね。なかなか活発そうです。犬は「一発でも殴ってみろ」と、イエロー・キッドを守るつもりです。

 

 イエロー・キッドのうしろでは、おじさんが全身をヘビに巻かれ、またその向こう側では乱闘が起こっています。城壁の近くでも乱闘らしき一群がありますね。全体的にけんかっ早いのかな。

 

 「本物のロック(石)で建てられていますよ、シャムロック(クローバー:アイルランドのシンボル)じゃないですよ」と貼紙のある城壁には、アクロバットしてるひとたちが何人もいます。いちばん目立つのは、足首をつかまれているさかさまの人ですね。「いったいブラーニーストーンはどこにあるんだよ」ということですが、ブラーニーストーンとは、この城に埋め込まれている特別な石のことです。それにキスすると雄弁になれるという言い伝えがあり、この時代すでに観光スポットになっていました(Blarney Stone - Wikipedia, the free encyclopedia)。

 

 ブラーニーストーンのことは、画面中景の「プログラム」と書かれた看板にも記載されています。そこには「イエロー・キッドを城に案内して、そこでイエロー・キッドはブラーニーストーンとリズにキスする予定」とあります。リズはイエロー・キッドの近くで雌鶏を見てますね。雌鶏は「わたしがほんとうのアイリッシュセッターよ」と、そんなわけないだろというセリフを発しています。雌鶏がすわっているのが、レンガを持ち運ぶときにつかうホッドという道具なので、レンガみたいにセットされてるってことなのかな。

 

 というわけで、前回のスコットランドのときもそうであったように、今回はあちらこちらにアイルランドのネタが仕込まれています。ただ今回は、女王と皇太子の姿はなく、またあちこちに好戦的な雰囲気が感じられて、ホーガン横丁ないしマクファデン通りと似ています。イエロー・キッドの先祖の地ですからね。