いたずらフィガロ

むかしのアメリカのマンガについて。

レアビットとセドリッツ・パウダー

f:id:miurak38:20160517064546p:plain

 1905年6月24日『ニューヨーク・イブニング・テレグラム』の「レアビット狂の夢」です。

 

 「うお...頭いたい、セドリッツ・パウダー飲まなきゃ」と言って、ベッドで頭をおさえている男がいます。

 

 セドリッツ・パウダーというのは、19世紀半ばにはもう広く流通していた薬です(Seidlitz powders - Wikipedia, the free encyclopedia)。ふつうは下剤として使われていましたが、上のマンガの人は頭痛をなんとかするために使おうとしています。ぜんぜんちがうだろうと思ってしまいますが、セドリッツ・パウダーには酒石酸という、甘酸っぱい味の化合物が入っていて(これはいまも清涼飲料などの食品添加物になっているようです)、だから頭がスッキリするのかもしれません。

 

 セドリッツ・パウダーの服用方法も定まっていました。

・青い包み紙と白い包み紙があり、青には酒石酸カリウムナトリウム重曹が、白には酒石酸が入っている。

・青のほうの粉を水に溶かして、そこに白いほうを加える。

・発泡してきたら服用。

 

酒石酸カリウムナトリウム自体にもう下剤効果があるそうですが、さらに重曹と酒石酸をまぜることで炭酸ガスが出てきて、それが便通を促す、ということなのかな。

 

 2・3コマ目で男は「だいぶ前に飲んだからあんまり覚えてないな、どうするんだっけ...あ、そうだ、青いほうを水に入れるんだ」「それに白いほうを入れて、泡立ってるうちに飲む、と」 というふうに、服用方法をしっかり守っています。3コマ目にグラスからどんどん出る泡が描かれていますね。飲むのが大変そうですが。

 

 4コマ目以降は、この泡がさらにふくれあがっていきます。「おかしいな、こんなに泡立つんだっけか」「うわ、こりゃとんでもないな、どうすれば止むんだこれ」「このままだと爆発して...」「わあ! 泡がどんどん広がっていく、グラスを持ってられないよ」「ぐわ! 家が粉々に! いつまでつづくんだこれ...泡がしぼんだらわたしはどうなるのか」。

 

 で、お月さまがにこやかに見つめる9コマ目、「しぼんでいく! わたしも落ちてるぞ! 終わりだ!」という具合です。爆発と落下という、おなじみのコースですね。