いたずらフィガロ

むかしのアメリカのマンガについて。

イエロー・キッドと火山の噴火

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 1897年5月16日『ニューヨーク・ジャーナル』の「イエロー・キッド」です。

 

 火山の爆発なのですが、いったいどこの火山だろう、ヴェスヴィオ火山かな...と思いながら手がかりを探していると、上の活字文の最初に Veesoovious と書いてありました。ヴィスウウヴィアス、と大げさな感じです。

 

 イエロー・キッドたちはこれまで、フランスやドイツを旅して、イタリアのヴェネツィアで舟に乗って、エジプトに来て、という道のりでしたが、今回ふたたびイタリアに来ました。帰り道ということでしょうか。

 

 まずはイエロー・キッドから見ていきましょう。かれは防火用のアスベスト傘をさしながら、火山から逃げてきています。顔は余裕の表情ですね。寝巻きの「ここには裸足(bare feet)でいられるところがないよ、山のふもとにも草木がないのかな(de foot of de hill is bare)」という言葉は、必死に逃げているようでもあり、シャレを言う余裕があるようでもあり。

 

 つぎは四面プラカードを。「この美しいナポリ湾は断崖(bluffs)に囲まれているけれど、ニューヨークのはったり屋(bluffs)にくらべればたいしたことないよ。ヴェスヴィオ火山ははったりなんかじゃないけどね、まじめに仕事してるから。まえに噴火してから1800と18年たつけど、いままた噴火したら、今夜はどこの街もアツくなりそうだね。ポンペイはかわいそうだったよ(poor Pompei)、街に起こった変化(change)を思うとさ。釣りはとっときな(Keep de change)」。

 

 シャレばっかりです。こういうところから流行語が生まれてたのかなあ。ちなみにポンペイの街が灰に埋もれてしまったのは西暦79年でしたので、計算はあってます。

 

 プラカードのつづき。「ウェイラーがキューバを鎮圧したら、今度はこっちにやって来てヴェスヴィオ火山も征服して、しかるべき場所に整列する(fall in)かもね。この山はもうすぐ爆発して、アツいやつになるよ、見ててよ」。

 

 ウェイラーとは、以前もこのマンガにその名前が出てきましたが、当時キューバを支配していたスペインの軍人です。「整列する」という意味の fall in はもちろん「とび込む」という意味でもあります。しつこいですがシャレです。

 

 さて、「とび込む」という言葉が出てきたところで、じっさいに火口のあたりでとび込んでいるひとのところに視線をやりましょう。画面左下の氷とか温度計とか墓石とか、ほかにも気になるものがいろいろあるのですが、前回は登場しなかったスリッピー・デンプシーのことが頭にあるし、プラカードの近くでヤギも「スリッピーのやつ、1マイルくらい飛び上がって、ナポリ湾の景色を楽しんでやがるぜ」と言ってるんですよ。

 

 というわけで画面左上に目を向けると、噴火のエネルギーで背中を持ち上げられている少年がいます。スリッピーでしょう。「千載一遇のチャンスをつかめるくらい高く、ボクを放り上げてくれないかなあ」。彼はなにを欲しているんでしょうね。単にナポリ湾の絶景が見たいだけじゃないような気がするんですよね。スターダムにのし上がりたいのか、あるいはなにか悟りを得たいのか、よくわかりませんが、彼のこの言葉は読者を立ち止まらせます。

 

 すぐ下にいるオウムは、焼き鳥になるのを覚悟で「もしスリッピーがなかにとび込まなかったら、こんなことにはならなかったのに」と言っています。火山の噴火はスリッピーが引き起こしたものだったんですね。火口からは火柱と噴煙があがり、タバスコ・ソースの溶岩が流れています。と同時に、火口のほうを指さす立て看板には「トイレはこちら」とも書いてあって、スリッピーのからだがいろいろな意味で心配です。