いたずらフィガロ

むかしのアメリカのマンガについて。

リトル・ニモと雪合戦

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 1907年2月10日『ニューヨーク・ヘラルド』の「眠りの国のリトル・ニモ」です。

 

 「階段がくずれたときには死んだかと思ったぜ」「ボクもだよ」と、フリップとニモの親しげな会話からスタートです。前回はフリップが氷の地面に足をすべらせ、巨漢の家来スリートがフリップに転ばされ、その衝撃で地面が割れてしまったのでした。

 

 スリートは電話をしています。「ジャック・フロスト様! そりの乗り場で事故が発生しまして、お会いする場所を変える必要がございます、乗り場はもう使えませんので!」。氷の地面が割れたことを伝えていますね。それにしてもデカい体だな。コスチュームはかわいいですが。

 

 電話を終えると、スリートはニモたちに対し「フロスト様は大広間でお待ちです。急ぎましょう、急がないとわたしがクビになってしまう」と、状況を説明します。...クビになったらどうなってしまうんでしょうね。氷の世界の住人にはとどまりつつ、どこかでぶらぶら過ごすのかな。氷の宮殿のリクルートはどういうシステムなんだろう。

 

 3コマ目、一行が大広間にむかおうとすると、スリートがすぐに立ち止まって「雪男たちが雪合戦やってるぞ、気をつけてくださいね、雪玉にぶつからないように」とニモたちに注意をうながします。スリートの頭のうえに雪玉がいくつか見えます。これが次の4コマ目になると、雪合戦の様子がはっきりします。無数の雪玉が空を飛び交っていますね。その下にはたくさんの雪男が腕をふっています。雪男の体の向きからすると、チーム戦というより、各自が好きな方向に投げている感じですね。雪玉がどこからどう飛んでくるかわかりません。

 

 ニモたちは氷の回廊を歩きながら、外の雪合戦の光景を見ています。「雪男じゃないか! やりあってんな」「おたがいに雪玉を浴びせてるね!」と、フリップとニモはすこし楽しそうです。男の子だからかな、もしかしたらいっしょに雪合戦やりたいのかも。お姫さまはなにも言いません。ふたりの男子にくらべるとだいぶ大人。

 

 スリートは雪男たちを指さして「おい、おまえたち! 投げるのちょっとやめてくれ!」と、雪合戦を中断して自分たちを安全に通すよう訴えます。ですが雪男たちはぜんぜん聞いてくれません。スリートは「あいつら狂ってる...」と困りつつ、それでも「おい、聞いてるのか!」と声をかけつづけます。

 

 すると、スリートの顔に雪玉が命中します。回廊のすぐ下の雪男がこっちを向いてますね。新たな標的を見つけたという感じです。すこし奥のほうにも、こっちを向いてる雪男がいますが、首が胴体から離れています。よそ見してたらべつの雪男にやられたようです。いずれにせよ、雪男たちが徐々にニモたちに気づきはじめた。

 

 フリップは、首を折られた雪男を見ています。「あいつら、おたがいの頭にぶつけてるのか、すげえな!」と言ってます。だからスリートの顔に雪玉が命中したのも、どこかの雪男がスリートの首をボコッとやっちゃうつもりで投げたんでしょう。ニモも興奮して「だよね! こりゃすごいや! あの人たち、ほんとうの雪男なんだよね」と、雪合戦の光景に夢中です。

 

 6コマ目、紙面を左から右にぶち抜いたコマいっぱいに、雪合戦の様子が描かれています。いちばん左でフリップが顔をやられてますね。ニモは「見てよ、みんな雪まみれだ! ボクこれずっと見てたいよ!」と大興奮ですが、となりのお姫さまはこの光景に背を向け、顔をおおっています。ニモとお姫さまとではずいぶんと気持ちに差があります。こんなに元気なニモは久しぶりだな。ニモのアクション好きの血が、フリップを介して増大したのかしら。

 

 スリートはみなに急ぐよう伝えます。「あいつらみな大バカ者だ! 急いで! はやく!」。しかし雪玉は回廊のほうにもどんどん投げ込まれ、ついにニモにも命中してしまい、ニモは「鼻が!」と叫んでます。フリップは「身をかがめるんだ! 手とひざをつけ! びしょぬれになるぞ!」と助言していましたが、ちょっと遅かったです。

 

 スリートはいよいよあわてています。「ほら! 走ってください! 雪男は雪だからいいが、わたしたちはケガしてしまいますよ!」と、鼻に雪玉がぶつかったニモを見ながら、だから急げって言っただろ的な苛立ちをわずかに示しています。背中には雪玉が当てられているようですが、その巨体を生かしてお姫さまをかばっています。やさしいですね。まあ、お姫さまに万一のことでもあれば間違いなくクビでしょうしね。

 

 空中を飛び交う雪玉は、ひとつひとつが大きく、また色彩による陰影のつけ方のおかげで、湿った雪玉の感じがよく出ています。雪男の首が胴体から割れているときのボコッとした感じも、自分が雪だるまをつくったときのことを思い出させてくれます。リアリティあります。