いたずらフィガロ

むかしのアメリカのマンガについて。

レアビットと失われたピッチフォーク

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 1905年8月23日『ニューヨーク・イブニング・テレグラム』の「レアビット狂の夢」です。

 

 真っ黒な背景に、ふたりの人物が登場しています。ひとりは悪魔でしょうか、頭にちいさな角があります。「おい、オレのピッチフォークをどこにやった! おまえがもってるんだろ、どこに隠したんだ」と言いながら、相手の首に結わえつけられたひもを引っぱっています。どうやらピッチフォークをなくしたようです。

 

 相手の男は「わたしは見たこともありませんよ、ピッチフォークをもっていたならそう言いますが、ほんとうにわたしはもっていないんです」と答えています。布を一枚まとっているだけの男が、首に巻かれたひもを引っぱられながら、悪魔に問いつめられている。あたりは真っ暗。ここは地獄ですね。

 

 「どうしてわたしが嘘をつかなければならないでしょう、わたしはもっていませんよ、こんなことをして何になるというのですか」。男は悪魔に引っぱられながら歩いていきます。前を歩く悪魔は「オレをバカにするなよ、おまえがもってるんだ」と聞く耳をもちません。男をどこにつれていくんでしょう。

 

 3コマ目、悪魔が足下を指さしています。その先には、火が燃えている皿があります。「こんなことをしたってムダですよ、もっていたならそう言います。なぜこんなことをするのか...」という男に対し、悪魔は「ここに顔をいれろ!」と拷問を開始します。

 

 悪魔は男に馬乗りになり、男の顔を燃える皿に押しつけています。押しつけすぎて火が見えないし、さらには男の頭までもが暗闇のなかに消えているほどです。悪魔は「オレの調理器具をつかってふざけてる人間どもが、オレには我慢ならねえんだ。オレのピッチフォークで何をしたんだよ、言えよ」とよくわからないキレ方をしています。人間がピッチフォークをつかってふざけてる...干し草や藁を集めるのが、悪魔には「ふざけてる」と見えるのかな。顔のない男は「嘘ではありません、ほんとうにもっていないんです、ピッチフォークがどこにいったのか、わたしにはわかりません」と、顔がないながらも答えています。

 

 このあとも同様の流れがつづきます。「ほんとうです、ほんとうなんです。こんなことをされてまで嘘をつくわけないでしょう」「言え、どこだ、言わねえんなら仰向けになれ」(5コマ目)。「おい、シンダーズ! ハンマーと釘をもってこい! すぐにだ!」「こんなことをしても何にもなりませんよ、あなたのピッチフォークを見たことさえないんだから」(6コマ目)。シンダーズ、だれだろう。この悪魔の手下かな。

 

 7コマ目、大きなハンマーと釘をもってきてもらった悪魔は、仰向けに横たわる男にそれらを見せながら「もう一度チャンスをやろう、どこにやったか言うんだ!!! オレのピッチフォークで何をやったんだ」と叫びます。男はあいかわらず「ですからほんとうに、わたしはもっていないんです! ほんとなんだ!」とおなじことを言い返しています。もうちょっと返答に工夫をしてみたらいいのにと思うんですが、まあたぶんこの人、いきなり地獄に来ていきなり悪魔に問いつめられているんだろうから、冷静さを欠いていても無理はないですね。

 

 次のコマでは、男の顔に釘が打ち込まれています。しかも悪魔は「シンダーズ! もっと釘をもってこい! 束ねてあるやつぜんぶだ!」と、さらに釘が必要みたいです。男は「やめてくれ! ピッチフォークはもってないんだ、釘を打たないでください...」と懇願しています。しかし悪魔はハンマーを手放しません。9コマ目はもっとひどいことになっていて、横たわる男の顔が釘だらけになっています。「ここで嘘ついちゃいけねえんだよ、地上とはちがってな」「嘘などついていません! やめて!」。顔が釘でつぶれてもなお、男は話ができるんですね。それもまた怖い。あ、シンダーズがいましたね。小鬼って感じです。

 

 夢を見ていたのは理髪店の客でした。ひげを剃ってもらってるときにうたた寝したようです。眠くなりますよねあれは。でも飛び起きてたら危なかったですね、かみそりが顔の近くにあったのだから。