いたずらフィガロ

むかしのアメリカのマンガについて。

リトル・ニモと海賊船

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 1907年3月17日『ニューヨーク・ヘラルド』の「眠りの国のリトル・ニモ」です。

 

 ジャック・フロストの宮殿は、業者が取り壊してしまいました。宮殿に使われていた氷を売るためです。眠りの国も資本主義経済だったのかとおどろくわけですが、今回の冒頭場面はさらにおどろきです。宮殿が跡形もなくなくなっています。

 

 ニモたちは水辺にたたずんでいます。お姫さまが水面をながめながら「美しいジャック・フロストの宮殿もあれだけになったのね、悲しい」と力なくつぶやき、ニモも「あんなに立派だったのにね」と応答しています。フリップは「氷人間のやつらもおもしろかったけど、みんないなくなったな」と言ってますね。雪合戦してた連中はまあ溶けてしまったでしょうが、宮殿内を案内していた人たちはどうなってしまったのか...。なにもない水平線と黒い空が不気味です。

 

 ニモたちは氷の地面に立っているのですが、2コマ目、かれらの背後で地面が割れ、かれらを乗せた氷だけが動き出し、漂流をはじめます。ニモとお姫さまは「あの人たちがどこで氷を手に入れるのかわかったよ」「そうね、それを売ってお金をもらうんだわ」と、業者のことを言ってるのか、ともかく漂流に気づいてません。フリップだけが「おれたち動いてるんじゃないか」と言ってます。

 

 次のコマではニモも「わ!」と、氷が動いていることに気づきました。お姫さまはさらに「なにか聞こえるわ」と、動く氷とはべつのなにかを察知しているようです。なんだろう。フリップは「オレたちのところが陸から離れたぞ」と状況を説明してくれています。

 

 「どうやってもどろう」「わからないわニモ!」「泳ぐしかねえだろ」。フリップは動じていませんね。そんな会話のなか(4コマ目)、水平線のむこうになにかが浮かんでいます。ちいさくてわかりませんが、次のコマで帆船だとわかります。ニモとお姫さまが「泳げないよ!」「わたしだって!」と慌てふためいている一方、フリップは「見ろよ! 船だぜ!」と、いち早く船に気づきました。今回のエピソードはフリップの冷静さが際立っていますね。

 

 「よかったあ」「ステキな船じゃない?」と、ニモとお姫さまが安堵します。フリップは「オレは好きじゃないね」と批判的です。なかなか立派な船だとは思いますが、フリップはなにが気に入らないのか。

 

 船が近づきます。船員が顔をだし、ニモたちと目が合います。「助けにきてくれてほんとうにありがとう」と、三人を代表してお姫さまがお礼を述べ、次のコマで船員に引き上げられます。

 

 しかし、船員の言葉はさらなる困難のはじまりでした。「これがなんの船かがわかっても、まだありがとうって言えるかね。これは海賊船だよ」。眠りの国の王様が助け船をよこしたのかと思いきや、なんと海賊船でした。よく見ると、船の窓から海賊たちがニモたちをにらみつけています。

 

 前回の取り壊し業者につづき、今回は海賊と、眠りの国もなかなか大変です。ニモが眠りの国に入り込み、フリップとつるむようになって、夢の国のパワーバランスが微妙に変化してきたんだろうか。フリップは「そうだと思ったぜ」と、はしごを上りながらつぶやきます。だからこの船が好きじゃなかったんですね、ほんとフリップは冷静だな。

 

 9コマ目、甲板にのぼったニモたちを、海賊たちが取り囲みます。ひときわ巨体の船長が「そいつらを鎖につなげ! つかまえて、身代金をちょうだいするんだ」と船員に命じています。ニモは「わあ、海賊だ」とおどろいています。気づくのが遅い...いや、あるいは、パニックになりすぎて、もうそれしか言えないのかも。フリップは「つなげよ、おれたちは気にしないぜ」と勇ましいことを言ってます。

 

 今回はここまでです。「眠りの国のリトル・ニモ」はじまって以来のサスペンスですね。ニモたちはどうなってしまうのか、次週が気になります。状況を打開しそうなのはフリップでしょうね。フリップの活躍に期待がふくらみます。