いたずらフィガロ

むかしのアメリカのマンガについて。

レアビットと気ままな暴君

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 1905年頃に『ニューヨーク・イブニング・テレグラム』に掲載された「レアビット狂の夢」です。これも日付はわかりません。

 

 物語世界も、いつの時代のことなのかよくわかりません。古代ローマの為政者のような男が御輿にかつがれてやってきます。えらそうにふんぞり返っています。周囲では「ニューヨークは王への忠誠を誓います。皇帝万歳、王様万歳」「ニューヨークは皇帝を歓迎します、万歳」と声があがっています。

 

 皇帝は「こどもたちの顔が見られてわたしはうれしいぞ。みな豊かに暮らすことを願っておる、その富をわたしがもらうのだからな」と、いかにも皇帝らしいことばです。

 

 皇帝は御輿をおりて、「顔をあげよ奴隷たち。黄金をもってくるのだ。よいか、わたしに集められるだけの金をもってこい。もってこれなければ、おまえたちをライオンどものところへ送ってやる。いそぐのだ!」と、ゴールドやマネーを臣民に強く求めます。どうでもいいけど、この皇帝がおばさんみたいに見えるのってわたしだけですか。

 

 場面かわって、3コマ目では女性たちと豪勢な食事です。「そうさ、妻たちはわたしに従わなければ、競技場行きだ。昨日は26人がライオンのところへ行ったよ。わたしを楽しませなくてはいけないぞ」。となりで笑っている女性も、内心では恐ろしいのではないでしょうか。笑わなければ死ぬ、と思っているのでしょう。

 

 さらに次のコマでは競技場が描かれています。皇帝は画面手前の観覧席から、奥の競技場に立つ男と、そのまわりに群がるライオンたちをにらんでいます。「あの男をつれだして、ちょっと太らせろ。ライオンどもがもう食べすぎてて、好き嫌いがあるな。わたしはもう飽きたよ」と、人とライオンとのバトルをやりすぎて、つまらなくなったようです。

 

 そこで皇帝は、義理の母親をつれてきて、家来にこう言います、「わたしの不満は義母のせいだ。すぐに青酸を飲ませよ」。いったいどういうわけなのか、皇帝は自らのつまらない生活を義母のせいにしています。青酸(prussic acid)を飲めと言ってますが、やっぱり青酸カリを飲んで死んじまえ、ということでしょうね。「レアビット」は義理の母親に冷たいマンガです。

 

 6コマ目は皇帝と元老院議員との会話です。皇帝は「わたしはこの退屈な日々がつまらないのだよ、うんざりだ。ニューヨークに火をつけて、街が燃えさかるなかでバイオリンをひくというのはどうだろう?」と、まったくわけがわからないことを言い出します。

 

 それに対し、元老院の男はこう言い放ちます、「精神病院に行ったほうがようさそうですな。バイオリンひけるんですか? 気が狂っている」。まさかの反抗的な答えです。命が惜しくないのか。

 

 皇帝は結局、次のコマでニューヨークに火をつけ、バイオリンを奏でます。議員に足蹴にされているので「どうしたんだ、おい、やめるんだ!」と声を荒げていますが、議員は「おまえにはうんざりだ。このまぬけめ。何様のつもりだ?」と、この暴君を弑逆しかねない勢いです。

 

 夢からさめたのは警官でした。ちょっと居眠りしてたみたいです。暴君、燃える街、バイオリンといった要素は『クォ・ヴァディス』ですので、この警官も小説を読んだか舞台を見たかしたのでしょう(レアビットとクォ・ヴァディス - いたずらフィガロ)。