いたずらフィガロ

むかしのアメリカのマンガについて。

リトル・ニモと鍋のなかのフリップ

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 1907年5月12日『ニューヨーク・ヘラルド』の「眠りの国のリトル・ニモ」です。

 

 タイトルロゴのかわいい1コマ目、ニモたちはキャンディ諸島の族長や他の島民たちとともに、軍艦を降りて小舟に乗り込んでいます。前回の話では、この島でしばらく過ごすということになりましたので、これから族長が島を案内するのでしょう。

 

 族長は「船長には、きみたちの安全に気をくばると言ってある。心配ないよ」と、小舟のうしろででーんとかまえていますが、すぐまえのフリップが「おい、あんたがこの国を大事にしてるんなら、オレたちを大事にしてくれなくちゃダメだぜ、さもないとあんたが困ることになる」と、脅迫めいたことばを返しています。

 

 小舟の帆が1コマ目を左と右に分割していますが、右側では島民のこどもたちが「なあ、族長がお祭りをやるって言ってたよな」「船長にそう言ってたよね」とおしゃべりしています。どうやら宴の席を用意してあるようですが、かれらは帆のかげにかくれておしゃべりしているので、ニモたちには聞こえていないかもしれません。

 

 小舟は岸につき、ニモたちは小舟を降ります。フリップが「おいおまえたち、おとなしくしてるんだぞ、面倒なことになりたくなければな」と、島のこどもたちに釘をさしますが、はたしておとなしくしているのかどうか。これも前回の話にありましたが、この島のこどもたちはいたずら好きということでした。

 

 族長はお姫さまとニモに「これからジャングルに入ってわたしの宮殿へむかう。祝宴の準備はできているぞ」と言って、ニモたちをジャングルへと誘います。で、3コマ目、族長は「今回の来訪をうれしく思うぞ、ジャングルはいま花ざかりでとても美しいのだ。こっちだ、わたしについてきてくれ!」と言いながらニモたちを画面右奥のほうへつれていきます。

 

 フリップもそれを追いかけるのですが、なぜかフリップの周囲には島のこどもたちがわんさといて、フリップにちょっかいを出してますね。好かれてますねフリップ。「こいつらほんとうざい...おい気をつけろ! いてえだろうが!」。フリップはしかめっ面で、なんとかこどもたちを無視したいんでしょうが、こどもたちがそうさせてくれません。

 

 4コマ目、こどもたちはみんなでフリップを抱えています。そのさきには大きな鍋が準備されていて、フリップはこのまま鍋に入れられてしまうのでしょう。鍋の近くのこどもが「こいつを入れて火をつけよう!」と言っています。人喰いとは、だいぶ危ないネタですね。

 

 族長はニモたちをつれて、画面奥のジャングルに入るところで、「きみたちの船の護衛もあとからやってくるよ。家のなかにいるみたいに安心できるはずだ」と言っていますが、画面手前でフリップが鍋に入れられているのを見ると、族長もこどもたちを完全にコントロールできているわけではなさそうです。こどもですからね。

 

 その族長、次のコマでようやくフリップの状況に気づきました。ニモとお姫さまが「フリップはどこだろう...あ! あそこだ!」「なにやってるのかしら」と話しているのを聞いて、族長も画面手前を向いています。フリップはすでに鍋に入れられ、「もうすぐごはんだ!」と言ってるこどももいます。

 

 族長はあわてて「こらこらこら! やめろ! やめるんだ! 全員立ち去れい!」と駆け寄ってきて、こどもたちもあわてて逃げ出します。フリップは「こいつらマジでオレを食おうとしてたのかよ」と、あきれたような顔で鍋のなかにいます。

 

 こどもたちは、じっさいどうだったんでしょう。ほんとうに食べようとしていたのか、それとも手のこんだいたずらだったのか。これだけ大勢のこどもたちがいると、単なる遊びだった子と、本気で食べようとしてた子と、どっちもいるのかなとちょっと思うんですが、ただ、そのわりにはみんな統率がとれている。各自の動きにムダがないように見え、遊ぶか食べるか、答えはどちらかひとつのように思います。さしものフリップも、統制のとれたこどもたち相手ではなかなか悪さができないかもしれません。