いたずらフィガロ

むかしのアメリカのマンガについて。

リトル・ニモと渡河

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 1907年5月26日『ニューヨーク・ヘラルド』の「眠りの国のリトル・ニモ」です。

 

 前回はジャングルのなかを歩いていたわけですが、今回は川をわたるようですね。一行は水辺につき、お姫さまとニモがいすに乗り込んでいるところです。いすは竹でできており、いすの前後に二本ずつ竹の棒がのびていて、輿になってますね。島に住む人々がこれをもちあげ、川をわたるのでしょう。

 

 族長はフリップに「君も来るとは思わなかったんだ、だから...」と話しかけ、フリップがその先を継いで「だからオレがすわるところがないってんだろ? わかったよ」と納得しています。ニモをいすから追い出したりしてません。フリップの性格からすれば、輿を独り占めしてもおかしくなさそうですし、以前なら「すわらせないんなら太陽を呼ぶぞ」とか言ってそうですが。

 

 フリップはいすの背板のうしろに立ち、このまま川をわたるようです。「大丈夫だ、ここに立ってるぜ」。ニモはすこし心配そうにフリップを見ていますが、お姫さまはフリップよりも行く先のほうに関心があるようで、天性の冷たさが垣間見られます(笑)。族長は「よし、わたるぞ」と、輿を担ぐひとたちを動かします。

 

 川は深く、水面は3コマ目で担ぎ手たちの腹部まで達しています。フリップは「オレのいすはないが、オレはこうやって行くぜ、おんなじだろ」と、うしろからニモたちに話しかけ、ニモも「もうすぐあのひとの宮殿につくよね」と、自分たちが苦もなく渡河できるだろうことを期待しているようです。族長の「川をわたれば到着だ」ということばも安心材料ですね。ただ、となりで島の人々が「ギーク・イーク・イック」と、現地のことばをしゃべっているのがすこし不安です。

 

 4コマ目になると、担ぎ手たちは肩まで水につかりながら、「グーク・イーク」「ガンクル・ギーク」などと現地語で会話をつづけ、しゃべっている内容がニモたちにも読者にもわかりません。フリップが「こいつらカエルみたいにしゃべってんな」と言ってますので、カエルの鳴き声「クロウク croak」のように聞こえてるんでしょう。

 

 この島のこどもたちはたしか英語をしゃべっていたはずですが、このタイミングで島の人々がカエルっぽいことばをしゃべっているために、かれらは水棲生物的な属性を与えられています。ピュンマ(「サイボーグ009」)ですね。

 

 担ぎ手たちはどんどん水中に沈んでいき、5コマ目では顔だけ水面から出ています。フリップもちょっと心配になってきたのか、「これ以上沈むようだと、こっちもギークさせちゃうよ(I'll geek you if you go any deeper)」と言ってます。ギーク

 

 むろん文脈的に「オタク」という意味ではないので、とりあえず「クスリで興奮した」という意味の形容詞 geeked を参考にするなら「(力づくで抵抗して)おまえらを興奮させることになるよ」という感じでしょうか。よくわかりませんが。ただ、フリップの発言は、島の人々の音声をうけてのものですね。

 

 6コマ目、担ぎ手たちはとうとう完全に水没しました。フリップは「こいつらなぐってやりたいぜ」と言ってます。やはり実力行使にでようとしています。ニモは「フリップ、怒ってるみたいだ」と、あわてています。フリップが冷静さを欠くとどういうことになるのか、これまでさんざん見てきていますから、当然ですね。

 

 あ、よく見ると、フリップも足が水につかっていますね。ニモとお姫さまは無事ですが、一段低いところに立っていたフリップは足を水に濡らしてしまいました。それで怒ってるのか。

 

 しばらくすると、担ぎ手たちはふたたび姿をあらわしました。フリップは輿のうしろを担ぐふたりを怒鳴りつけています。「てめえら岸についたら戦争だぞコラ!」とものものしい。

 

 輿のまえでは族長が「しまった、いすのうしろのことを忘れてた、かれがそこに立っていたんだった」とうっかりミスを認め、輿の左右ではワニとカバが楽しそうに口を開けています。コマの大きさからして、おそらくは埋め草的にワニとカバが配置されたんだろうとは思いますが、それでもこうした猛獣があらわれてしまうと、フリップもうかつに暴れられないですね。だから「岸についたら戦争だ」と言っているわけですが。