いたずらフィガロ

むかしのアメリカのマンガについて。

イエロー・キッドとダイム・ミュージアム

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 1898年5月1日の「イエロー・キッド」です。

 

 掲載紙についてですが、『ジャーナル』と書いてあるものもあれば『ワールド』と書いてあるものもあり、よくわかりません。これについては後述します。

 

 「ケイシーの街角のこどもたちによるダイム・ミュージアム」というタイトルの下に、こどもたちや動物が一列にならんでいます。かれらはそれぞれ箱の上にすわり、みんなこっちを向いていて、じっとしてます。陳列されてますね。こどもたちのすわる箱や、うしろの壁には、見世物を説明する文がたくさん書かれています。

 

 イエロー・キッドは画面中央、見世物の前に立ち、客になにか説明していますね。しかしなぜか白いあごひげをつけてるなど、変装してます。服も黄色というよりは緑色ですね。「このコレクションをそろえてるうちに年をとっちゃったよ」だそうです。自らのダイム・ミュージアムを価値づけるための変装のようです。

 

 コレクションを見てみますと、まずいちばん左に黒ネコがいます。箱には「こちらは真正のネコ科のネコです」、貼紙には「これはネコです・変わったところはなにもないように見えますが、立ち止まって注意深く考えてみれば(なんだってそうです)ネコってほんとすばらしいですよ」とあります。なるほど、世の中は驚異に満ちていて、価値があるかどうかは見る人の目次第なのだということですね。あまり悪い気はしませんね。詐欺というよりユーモアに感じます。とくにネコ好きの方なら「まったくそのとおりだ」と感心するでしょう。

 

 黒ネコのさらに上には、星がつるされていて、そばに「これは、武器を隠し持っていたためにつかまった、ほんものの流れ星です」と書かれています。シューティング・スターの「シューティング」がじつは銃だった、ということですかね。このネタを陳列する勇気がすごい。

 

 「ガフ教授・占い師にして、あらゆる方面でのうそつき」という、よくわからない貼紙の下には、赤いリボンの女の子が、あごひげをつけてすわっています。手には黄色のうちわを持ち、足下に写真立てが見えます。箱に書かれていることばはこうです、「あごひげの女・この女性は顔にひげをたくわえた状態で生まれてきました・写真売ります、各5セント」。

 

 その右には、大人向けの青いズボンの中にはいって、サスペンダーで止めてる「太っちょの少年」がいて、その頭の上には「このショーの中じゃオレだけがほんものさ」と言ってるカラスがいて(ということは黒ネコは偽物なのか?)、その右には背中合わせですわってる「シャム双生児」がいます。このふたりは、イエロー・キッドの陰にかくれないように他の見世物よりも高い位置にすわっていることもあって、いちばん目立っています。いちばん目立つところに配置されているのは、シャム双生児が花形の見世物だったからでしょうか。

 

 その右の三人は、「ボルネグロの野人」「生けるスケリントン」「クラッカーズ」と書かれた箱にすわっています。

 

 「ボルネグロの野人」というのは「ボルネオの野人」のパクリで、当時の見世物には「ボルネオの野人」(Oofty Goofty - Wikipedia, the free encyclopedia)とか「ボルネオの野人兄弟」(Wild Men of Borneo - Wikipedia, the free encyclopedia)とかがあったようです。ここのボルネグロの野人は、顔を黒く塗って、ぼさぼさの髪にインディアンの羽飾りをつけ、左手にホッケーのスティックみたいなものをもっています。勇ましい武人のつもりですね。

 

 野人とは対照的に、となりの「生けるスケリントン」は青白い顔をしています。ガイコツっぽいという見た目でここに立たせられたのでしょう。野人の頭上にはスケリントンに関する貼紙があり、「この生けるスケリントンは他よりも肉付きのよいスケリントンですが、からだのなかには骨があります...エックス線をつかえば見れますよ、いまは故障中ですけど」だそうです。

 

 「クラッカーズ」にすわる少年は、なにが見世物になっているのかよくわかりません。胸につけているのは勲章でしょうか。かれの上にも貼紙があるので見てみると、「ビリー・ザ・ボーイ、ブリッジ・ジャンパー:高い橋の上から飛び下りるひともいますが、かれはどんな橋からも飛んだりせず、そんなわけでまだ生きています...なにからも飛び下りずに、自分のいのちを救ったおかげで、かれはメダルを手にしたのです」と書いてあります...。

 

 近くでオウムが「あの箱に入りたいな」と言ってます。クラッカーがなかに入っていると思ってるからでしょう。ただ、爆竹かもしれないし、また crackers には「気のふれた」という意味もあるらしいので、箱に入ったら大変なことになるかもしれない。

 

 それにしても、見世物になるような特徴や特技がなにもないひとを、インチキ説明文を添えて、堂々と見世物にしてしまうイエロー・キッドのプロモーターぶりはすばらしいですね。イエロー・キッドこそなによりの見世物だと思います。

 

 さて、冒頭でも言いましたが、このマンガの掲載紙については、『ジャーナル』だという情報もあれば、『ワールド』だという情報もあり、さらには「不明」としているものもあります。

 

 わたし自身は、『ジャーナル』に掲載されたんじゃないかと思っています。前回紹介した「イエロー・キッドと万能トニック」(イエロー・キッドと万能トニック - いたずらフィガロ)は1898年1月のエピソードで、今回の「ダイム・ミュージアム」とは数ヶ月のひらきがあるのですが、アウトコールトはこの空白期間、ハーストが新たに発刊した夕刊紙『ニューヨーク・イブニング・ジャーナル』のほうに注力するようになっていました。日曜付録からは「イエロー・キッド」が姿を消してはいたものの、夕刊紙にはときおりイエロー・キッドが白黒で描かれています。

 

 つまりわたしは、アウトコールトがハーストとの契約を保ったままライバル紙の『ワールド』に「イエロー・キッド」を描くというのは、ちょっと考えにくいなあと思っているわけです。

 

 ただ、『ワールド』に掲載されていたという情報は、わたしがたびたび参照している R. F. Outcault's the Yellow Kid: A Centennial Celebration of the Kid Who Started the Comics なんですよね...ビル・ブラックビアード御大が解説のやつ。なんでなんだろう...。

 

 えー、ところで、とつぜんのお知らせですが、今回をもって「イエロー・キッド」はひとまずおしまいです! 日曜付録掲載のアウトコールト作「イエロー・キッド」は、今回の「ダイム・ミュージアム」で最後でした。なので「イエロー・キッド」紹介ブログもおわりにします。

 

 じつはこれまで紹介していなかった「イエロー・キッド」もあるのですが、それはまたの機会といたします。それと、「イエロー・キッド」はアウトコールト以外にも描いていますので、それについてもいつか紹介してみたいなと思ってます。

 

 アウトコールトには「イエロー・キッド」以外にももうひとつ、「バスター・ブラウン」という超人気作があります(1902年の登場です)。これもブログで扱ってみたいですね。