いたずらフィガロ

むかしのアメリカのマンガについて。

レアビットと気ままな暴君・拡大版

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 1905年10月7日『ニューヨーク・イブニング・テレグラム』の「レアビット狂の夢」です。

 

 まずは、7月に紹介した「レアビットと気ままな暴君」(レアビットと気ままな暴君 - いたずらフィガロ)をごらんください。

 

 今回のエピソードは、「気ままな暴君」ととてもよく似ています。ところどころ「これは前のとおなじコマなのでは?」と思ってしまうくらいです。が、微妙に細部が異なっていて、なによりコマ数が2倍です。拡大版のリメイクですね。

 

 最初のコマ、人々がみな深々と頭を垂れています。「偉大な君主よ」「力強き賢帝よ、われわれはあなたに仕えます」「服従の姿をお見せいたしましょう」「強大な王にして支配者よ」など、完全に支配されている様子です。

 

 かれらの頭上には、その王が輿に乗ってやってきています。「皆のもの、会えてうれしいぞ。てきぱき働けよ、それでそのもうけをもってくるのだ、そうすれば生かしてやってもよい。金をよこすのだ...」。やはり今回も暴君でした。

 

 どこかの部屋に入った暴君は、「医者を呼んでこい、わしは疲れた。ああ、奴隷たちよ、わしは健康に気をつかわねばならんのだ、みなを楽しませるのはもううんざりだ」と、くたびれたようです。さっきのパレードのことを言っているのでしょうか。蓄音機のスピーカーからは「世界でいちばんうるわしいお方〜ラララ〜」と歌声が聞こえてきます。

 

 医者がやってきました。「もっとご自身がお楽しみになる必要がありますな。なにか新しいものをご覧になってはどうですか。つねに楽しみを得ることです、そうすればお元気になるかと...」と、暴君に対し、なにか気晴らしをしてみてはどうかと提案します。

 

 すると暴君は「すべてそなたが面倒をみてくれるのだな、礼を言うぞ。請求書などもってきたら、熱したタールのなかに入れてやるからな」と、さっそく仕事に取りかかるように命じます。医者もびっくりでしょうが、とりあえず死なずにすんでほっとしてるかもしれません。

 

 で、5コマ目、まずはエステです。「きれいにするんだぞ、さもなければおまえたちをゾウに踏みつぶさせるからな、しっかり励めよ」。ついで豪勢な食事。「おまえたち、わしがカナリアのレバーにうるさいことは知っておろうな。それに、蝶のキドニーを出さなかった妻たち26人がどうなったかも知っているだろう? 知らないのか?」。蝶にキドニー(腎臓)ってあるの? ...と思って調べたら、ないみたいですね(参照:消化のページ)。いやあこわいこわい。

 

 ドライブ中には「この通りには金が敷き詰められてないんじゃないか。もしそうなら大変なことだ!」と不満げです。室内では、そばに立つ女性が「すこしだけでいいからお話ししとうございます、わたしの娘、つまりお妃のことです...」と暴君に声をかけていますが、暴君はなにも聞かず、「おいおまえ、この義母をどこかに閉じ込めておけ、もう見たくないから」と奴隷に命じてしまいます。

 

 すでに十分なほどやりたい放題ですが、物語後半に入るとさらにエスカレートします。海上でしょうか、暴君が家来と舟に乗っていますが、家来が「明日、アリーナにてすばらしい催し物を予定しております、きっとお気に召すことと...」とよけいなことを企画しているようです。暴君は「おもしろくなかったら貴様はさらし台に送るぞ」と、またしても家来を精神的においつめていますね。

 

 で、その催し物が次の10コマ目でしょうが、なにがおこなわれているのか...。車が衝突しているのかな。暴君が「ひどい! ひどいな! おい、今夜さらし台だからな、わかったな」と告げているところから察するに、催し物は失敗だったようですね。やっぱり舟のうえで精神的にキツい思いをしたのがよくなかったんだろうな。

 

 次もアリーナです。「あの演し物つれてきたのおまえか? 株式仲買人とか政治家とかをつれてくるんだよ、それからそばに肉も置いておくんだ、そしたらライオンも食うだろうが! このまぬけが!」。なるほど、いまライオンに囲まれている人は、たしかにやせてるようですからね、もっと金回りがよくて太ってそうなやつをつれてこいということですね。

 

 無能な家来ばかりで怒り心頭の暴君はアリーナを立ち去り、今度は酒を飲みだしました。でもまだ怒っているので、山ほどの瓶をもってきた家来に対し「それでシャンパンぜんぶなのか? 明日おまえを焼いてステーキにしてもいいんだぞ。30か40クォートもってこい」とまた無茶を言ってます。30クォート、だいたい30リットルですね。飲めるはずありませんが、暴君にそんなこと言ったら自分がステーキになってしまいます。

 

 最下段、暴君は「よいショーはないのか、ないんならおまえはライオンのところに入れてやるだけだ」と、そばの家来に最後通告します。すると家来はもうやけっぱちになって「ニューヨークに火をつけるというのはいかがです? ニューヨーク中が火につつまれるなか、陛下がお歌いになるのです」と提案します。

 

 以前の「気ままな暴君」のときは、たしか暴君自らがニューヨークに火をつけることを提案していたはずですが、今回は家来が言い出しました。こんな人間が支配者になっている街など滅亡してしまえ、と自暴自棄になってのことでしょうか。

 

 そしてニューヨークが火の海です。「おお、すばらしい! おい、バイオリンをもってくるんだ、歌おうじゃないか。はやくもってこい!」「リュートではなくバイオリンですね、わかりました」。しかし、それまで従順だったこの家来、次の15コマ目でとつぜん暴君の腹を蹴飛ばしています。「おい議員よ、どうしたんだ? やめろ!」とバイオリンを弾きながら叫ぶ暴君に対し、議員は「まったく、とんだ大馬鹿ものだ! やめろやめろ! でていけ! ほんとひどいバイオリン弾きだ、いいかげんにしろよ」とわめいています。

 

 バイオリンを弾いたとたんに反抗的になったので、きっとニューヨークが火の海になるよりもひどい音色だったということでしょうか。あるいはバイオリンの音色が最後の一押しとなって、議員が沸点に達したか。目が覚めてみると、今回もまた警官の夢でした。同僚が警棒でたたいて起こしたのかもしれません。

 

 土曜日の「レアビット」は、コマ数が多いのですが、その分だけ物語が複雑になるかと言われれば、そこまでではないですね。ディテールは増しましたが、8コマが16コマになる程度では、筋を変えることはできなかったのか。たとえば、キャラクターがひとり増えたリメイク版などを見てみたいものです。