いたずらフィガロ

むかしのアメリカのマンガについて。

レアビットと酒をおごる男

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 1905年10月11日『ニューヨーク・イブニング・テレグラム』の「レアビット狂の夢」です。

 

 男がバーで「ビールをくれ、トニー。仲間たちがくるまえに飲まなくちゃ、いそいでるんだ。5分しか時間がない」と店員に話しています。5分しか時間がないのにバーにやってきたんですね。そりゃあトニーもこんな柔和な顔をしますよ。部屋の奥にいる白いネコは無関心そうですが。

 

 それでも知り合いがやってくると、男は「おお! まにあったな、なに飲むんだ」と声をかけ、わずかな時間のなかで親睦を深めます。

 

 5分たったんでしょうか、男が「いくらだい、トニー」とお勘定です。するとそのとき、べつの知り合いがむこうからやってきました。「よう、おまえらいたのか」。

 

 さらにべつの人もやってきて、バーはどんどん人が増えていきます。5分しかないと言っていた男は、入れ違いでバーを出ていくのかと思いきや「おっ、ギリギリ会えたな、こっちに来いよ」と、まだバーにいるつもりです。

 

 気持ちはわかりますね。時間がないんだけど、友だちにばったり会ってしまって、なかなかその場を離れられない感じ。

 

 客はまだまだ増えて、そのつど男は「こっちだこっち」と招いています。客たちは「ハイボールくれ」とか、「あれおもしろくない?」「ほんとおもしろいよなあれ」とか、「あの男ぜったい飲んでたよな」とか、めいめいに歓談していて、その中央で男が「なに飲むんだ? おごってやるよ」と場の雰囲気を盛り上げてくれています。時間は大丈夫なのか。

 

 8コマ目、男は「早くしろおまえ、おれは電車に乗らなくちゃならないんだから」といよいよ焦りだしていますが、それでも「なに飲むんだ?」と、まだおごるつもりです。こういう人いたらいいよね。ただ、上の場面では、注文を聞かれてる人は「なんだこりゃ、なにかみんなでたくらんでるのか? おれはずらかるぜ」と警戒しています。主人公の男が、客が来るたびにおごってるもんだから、かれを中心に人が集まっています。そりゃあトニーもあんな柔和な顔をしていたはずですよ。

 

 しかしさすがに人がおしよせすぎていて、とうとう主人公は「ここから出してくれ! こりゃひどすぎる」と音をあげています。もはや、ここがバーなのかどうか、このコマからはわからないほどです。

 

 今回の「レアビット」は、いつもにくらべて絵が雑な感じがしますね。マッケイ自身はあまりお酒を飲まなかったらしいので、酔っぱらいながら描いていたということはないと思いますが。最近、土曜日にコマ数の多い「レアビット」を描き出したもんだから、以前にもまして時間が足りなくなってきたのかも。