いたずらフィガロ

むかしのアメリカのマンガについて。

レアビットとボールを探す男たち

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 1905年10月14日『ニューヨーク・イブニング・テレグラム』の「レアビット狂の夢」です。

 

 ゴルフですね。ゴルファーとキャディーがいます。「1番ホール 258ヤード」と書かれた石柱みたいなのも見えます。ゴルファーは「人生最高のゲームになりそうだ」と、いい気分でいます。どうでもいいけど左打ちですねこのひと。

 

 スイング後、ゴルファーは「いいんじゃない? 1マイルくらい飛んでいったな」とご機嫌です。1マイル(1760ヤード)とは大げさですが、キャディーも「もうぜんぜん見えないね」と、かなりの飛距離があったみたいです。

 

 ところが、3コマ目、かれらはボールを見つけられません。グリーン近くで「このへんにはなさそうだな」「もっと遠くのほうだろう」と話していますので、これはどうやらOBですね。

 

 ふたりはコースを抜け出して、草をかき分けたり石をどかしたりしてボールを探しますが、やはり見つけられません。5コマ目では浜辺にいますが、「海のほうに飛んでいったんじゃないかな」「なら、舟を呼んで海を探さなくちゃ」ということで、これから海に出るようです。もうゴルフはやめたのかな。

 

 船上では「ここにもなかったら、このまま進んでヨーロッパまで行こう」「ひどい打ち方するからこんな遠くに来ちゃったんだぞ」と会話していて、ついにスコットランドに到達します。まんなかにタータンチェックをまとった現地のひとがいて、奥にバルモラル城が見えます(イエロー・キッドとバルモラル城 - いたずらフィガロ)。ボールを探しにきたかれらはアザミの茂みをかきわけていて、現地のひとに「やあ、ボールは見つかったかい?(Hoot mon! Dinna ye fine thuh wee bit o thuh ball?)」とスコットランドなまりで聞かれていますが、「まだだ、見つかるまでつづけなくちゃ、北極に行くことになってもね」と返しています。

 

 その後かれらは、けわしい山に登って谷間をのぞき込んだり、ラクダが歩く砂漠のなかでボールを探したりします。中国では弁髪のひとに「アヘンを探してるのか? ならアヘン窟に行け」と勘違いされていますね。

 

 11コマ目、気づけばかれらはだいぶ年をとっています。雪のなかにいますね。「ピアリーがボールの前を通ったんじゃないか、わたしに知らせてくれるかもしれない」「そうだな、帰ろう、こごえちまうよ。アラスカを通っていこう」としゃべっているので、やっぱり北極にきたようです。

 

 でも帰り道、あきらめきれないようで、「ロッキー山脈を探してダメなら帰ろう」といって岩山を歩いたり、あるいはナイアガラの滝まで来て「ここに落ちてしまったのかもしれない」と考えることで、ふんぎりをつけようとしたりしています。

 

 14コマ目、かれらはようやく、数十年前にいたゴルフコースに帰ってきました。1番フラッグはぼろぼろになっています...だれも手入れしてなかったんでしょうか。ゴルファーは「さびて傷んでるな」といいながら、旗を引き抜きます。

 

 すると、なんとボールが穴に入っていました。「ボールじゃないか」「世界中を探しまわったが、その間ボールはずっとここにあったんだ」。ホールインワンしてたのか、あるいは、どこかへ飛んでいったボールが、数奇な運命の連続をへて、ここへもどってきていたのか。いずれにせよ井上陽水「夢の中へ」を歌いたくなる状況ですね。探し物を見つけてしまったかれらは、幸福を感じながら天に召されるのか、失望のあまり土に還るのか...。