いたずらフィガロ

むかしのアメリカのマンガについて。

レアビットと白いスパッツ

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 1905年10月25日『ニューヨーク・イブニング・テレグラム』の「レアビット狂の夢」です。

 

 「あら、だれかしら。わかったわ、ラルフね、そうでしょう? わたしのかわいい息子のラルフよ」「そう、ボクだよ。ねえママ、ボクに約束してほしいことがあるんだ。 それをおねがいしたら、いいわよって言ってくれるかい?」

 

 「あら、キスのことね。いいわよ、約束するわ。好きなだけキスしてあげるから」「そうだねママ、でもね、ほかにもあるんだ。白いスパッツを買うお金がほしいんだよ」

 

 「白のスパッツですって! ダメよ、ちょっと待って、そんな物ほしくないはずよ」「冗談でしょうママ、本気なの?」

 

 「冗談じゃないわよ、だって白いスパッツだなんて年寄りくさいじゃないの。あなたはまだそんな...」「ああ、かあさん! まさか本気なのかい。ママはそんな残酷なこといわないはずだよ」

 

 「わたしは残酷なことなんかしたくないわ、ラルフ、けどね、よくお考えなさいな。あなたは...」「そんな! かあさん! ひどいショックだよ」

 

 「そんなふうにいわれるとわたしも傷つくわ。いったいどうしたのよ...」「ああ、ボクの心はもうあのスパッツに釘付けなんだ、ママがボクのいうこと聞いてくれないなんて」

 

 「信じられないよ! ママ〜、ふええ〜!」「泣くのはおよし、ラルフ! あなたのママがどんなにつらいか、ねえ、泣かないで」

 

 「ふぐうう、マムァ、マ、マム、ふええ〜」「ラルフ! かあさんを悲しませないでちょうだい! わたしはあなたのことをだれよりも大事に思ってるのよ、ねえラルフ!」

 

 「マ、マムァのせいで、ふぐうう、もうつらいよ、ママ〜、ふええ〜!」「あなたのいうことならママはなんでも聞き入れてきたわ...ああ、ラルフ! そんな、わたしはいつだって...おねがいだから泣くのをやめてちょうだい、ラルフ!」

 

 ...いやあ、すごいですね。なんなんだこの話は。白のスパッツをめぐって、仲のいい母と息子が悲しい状況におちいってしまったわけですが、そんな、そんな力が白いスパッツにあるとは。

 

 ママが「年寄りくさい」っていってることから察するに、白のスパッツっていうのはズボン下・ステテコ的なやつかな...と思ったら、どうやらステテコじゃなくて、靴をおおうアクセサリーに「スパッツ」というのがあるんですね、知らなかった(Spats (footwear) - Wikipedia)。19世紀後半から20世紀初頭にかけて、主に男性が着用していたもので、各国軍隊の制服の一部になっているみたいです。今回の「レアビット」が掲載された頃には、そろそろ時代遅れのものとなりつつあったのかも。

 

 でもそんなことより、いちばん驚くのは、マッケイはよくこれで話をひとつ作ろうと思ったな、ということですね。たしかに、いい大人がこどものように泣きじゃくるのはある意味狂ってるわけで、悪夢といえますが、「スパッツ買ってもらえなくて号泣する男...これはおもしろい! さっそく描こう」ってなるかな普通。なるの?