いたずらフィガロ

むかしのアメリカのマンガについて。

レアビットと1905年ニューヨーク市長選

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 1905年11月1日『ニューヨーク・イブニング・テレグラム』の「レアビット狂の夢」です。

 

 電車のなかでしょうか、男性がすわって新聞を読んでいると、むかって右隣にすわる男性が「だれが当選するかね」としゃべりだしました。選挙が行われているんですね。

 

 むかって左隣の空いているスペースに、2コマ目で別の男性が腰を下ろします。真ん中で新聞を読む男は、左右の乗客には目もくれませんが、右の男はつづけて「あんたはだれに投票するんだい?」と話しかけています。

 

 すると左の男がそれに呼応します。「おれかい? チャーリー・マーフィーさ」。右の男はそれに対し「ならジョー・マクレランに投票するわけだな」と返しています。

 

 チャールズ・マーフィー(Charles Murphy)とは、民主党の政治組織タマニー・ホールで当時ボスだったひとです(Charles Francis Murphy - Wikipedia)。ジョージ・マクレラン(George McClellan)もタマニー・ホールの所属で、マーフィーを後ろ盾として1903年のニューヨーク市長選に勝利しています(George B. McClellan Jr. - Wikipedia)。

 

 今回のエピソードが掲載された1905年11月もまさにニューヨーク市長選をひかえていた時期で、マクレラン市長は再び立候補したのですが、マクレラン市長に対抗する立候補者のなかには、なんと『ニューヨーク・ジャーナル』のハーストがいました(https://en.wikipedia.org/wiki/New_York_City_mayoral_elections#1897_to_1913)。タマニー・ホール所属の現職か、新聞王ハーストか、あるいは共和党の立候補者か。ニューヨーク市民のあいだで、市長選挙は(あたりまえですが)大きな関心事となっていたわけです。

 

 とりわけおもしろいのは、マーフィーとハーストがもともと盟友だということです。だから人々は、マーフィーはタマニー・ホールのマクレランを応援するのか、それとも友人ハーストを応援するのか、注目していたのですね。結局マーフィーはマクレランを支持し、ハーストと決別します。

 

 マンガにもどりましょう。左の男は「だれに投票しなくてもいいだろ。おれの好きにするさ」といっていて、もしかしたら投票するつもりがないのかもしれませんね。マーフィーは支持するがマクラレンには入れない、ということかな。右の男は「あいつはタマニーのやつだろう?」とふしぎそうにしてますが、まあ、おなじ派閥ならだれでもいいというわけではないよね。

 

 左右の男たちは声を荒げはじめました。「そうさ! だからやつには投票するよ」「それはだからマクレランのことだろ?」「いや、ちがう、マーフィーだ」「なんでだよ! マーフィーには投票できないだろ」「おれはアメリカ人だ、投票する権利が...」「けどマーフィーにはできないんだよ」「なんでだ! おれに投票権がないってのか?」「ちょっとおちつけよあんた」「投票権がないって言いたいんだろ?」「いや投票権はあるけどさ...」。

 

 中央の男はもみくちゃにされています。めんどくさいことに巻き込まれて災難ですね。

 

 ちなみに、この選挙は現職のマクレランが勝利し、ハーストは僅差で破れました。マクレランの勝利の陰にはマーフィーによる選挙違反があったとされ、投票日の直後にはマーフィーが囚人服を着ている風刺画が新聞に掲載されています(https://archive.org/stream/currentliteratur41newyrich#page/476/mode/2up)。こんなやつです。

 

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 タッド・ドーガン(Tad Dorgan)の風刺画です。で、「おれこいつ見たことあるぞ...」と思って「レアビット狂の夢」をさがしたら、やっぱりいました。

 

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  これは1906年10月13日の「レアビット狂の夢」です。一年近くもこのキャラもってるのか。かなり人気の図像だったんですね。こっちのエピソードについてはいずれやりたいと思います。