いたずらフィガロ

むかしのアメリカのマンガについて。

リトル・ニモとカラフルな崖

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 1907年10月13日『ニューヨーク・ヘラルド』の「眠りの国のリトル・ニモ」です。

 

 ニモたちは前回にひきつづき、なおも海軍に追い立てられています。背景にはビルの焼け跡がならんでいますね。誤って火事を起こしてしまったフリップを、海軍が排除しているコマです。

 

 うしろをふりかえるインプに対して、フリップが「うしろを向いてないでどんどん走れ!」とどなります。いちばん前のニモは「ビルを倒して燃やしちゃうなんて!」と、ちょっとフリップに怒ってるようですね。

 

 プリンセスがいたときは、怒るのはたいていプリンセスでしたが、いまはニモがこの役回りのようです。インプが英語をしゃべれないんじゃ、たしかにツッコミ役はニモしかいません。

 

 「そんなつもりなかったんだよ!」「街の小人たちと仲よくやれたかもしれないのに!」「でもいまはとにかく逃げるしかねえ!」と喧嘩しながら、一行は川岸をどんどん離れていきます。すごく大きな川で、2コマ目から3コマ目にかけての描写など、まるで海ですね。

 

 3コマ目で、ニモが「むこうに岩山がある、のぼろう」と言っています。どうやらこの先に、海軍の追撃を逃れられそうな山があるみたいです。

 

 そんなわけで4コマ目から、三人は岩山をのぼりはじめます。海軍はまったく砲撃をやめないので、フリップもニモも「はやくのぼるんだ!」「はやくしないと!」とあわてています。5コマ目ではフリップの位置がずれて、三人が一列にならんでいないという変化を見せています。

 

 かれらのあわてぶりを示すかのように、背景の色もコマごとにかわっています。5コマ目は景色が緑と赤にかわり、6コマ目はまた青と黄色にもどり、7コマ目になるとふたたび赤と緑になります。7コマ目は、ニモたちが手をかけているところだけは岩の色が茶色です。紙面全体を一望するととてもカラフルです。

 

 ニモたちは、背景の色の変化にはまったく気づいていません。ニモたちには見えてないんでしょうかね。見えてるけど、不思議なことがこれまでいっぱいありすぎて、色の変化などささいなことだと思っているのか。

 

 6コマ目あたりになると、ようやく砲撃が止みます。「ここまでは届かないようだな。ふう、砲弾だらけだぜ!」「ぼくもだよ」。そういえばよく見ると、かれらの服には穴があいてますね。からだのなかに弾丸がいっぱい入っているんでしょうか。でも血は流れていません。頑丈なからだです。

 

 フリップは「頂上についたら、弾丸をからだから取り出さないとな。最悪だぜまったく」と崖をのぼります。ニモも「お家に帰りたいよう」と弱気になってきました。しかしよくもこんな垂直の崖をのぼれるものです。高さだって高層ビルの比ではありません。

 

 8コマ目、一行はまだのぼりつづけています。はるか下方の軍艦が虫のようです。いったいどこまでのぼりつづけなければならないのか。ニモは「お家に帰りたいよ〜!」と、ほとんど泣きそうです。下でフリップが「帰れるから心配すんなよ」といいますが、ニモにはあまり聞こえていないかもしれません。

 

 すると、ニモは次のコマでほんとうに家に帰ってきました。目の前がとつぜん自分の部屋になってしまって、ニモはなんだか戸惑っているようにも見えますが、お家のひとはそんなニモに「お家に帰ってきてますよ。ベッドに戻りなさい」と注意してますね。でもニモはもう崖をのぼりたくないでしょうから、ベッドで夢のつづきを見たくはないでしょう。