いたずらフィガロ

むかしのアメリカのマンガについて。

リトル・ニモと走り屋サンタ(遅い)

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 1907年12月22日『ニューヨーク・ヘラルド』の「眠りの国のリトル・ニモ」です。

 

 前回ではサンタクロースが突然あらわれて、「ニモをつかまえてクリスマスやるぜ」と言いながら、ニモたちの前を車で去っていったのでした。ニモたちはあわててサンタのあとを追いかけます。

 

 でも、追いつくんでしょうか。相手は車に乗っているわけですし。ニモたちは、サンタが落としていったプレゼントのなかを走っているわけですが、4コマ目まで構図がまったく変わらず、また現代の私たちにはおなじみのスピード線も描かれていませんので、あまり速そうじゃないですね。

 

 そもそも走る姿勢がスタコラサッサなんで真剣味が足らんな。しかしそういえば、三人は食べすぎて丸々としてたのでした。構図が変化しないこと、スピード線がないことは、「走ってるけど遅い」表現としては適切かも。

 

 ところが驚くべきことに、2コマ目でフリップが「ガソリンのにおいがするぜ、追いつきそうだ」と言ってるので、どうやら三人は車との差を縮めています。たしかに排気ガスがどんどん増えていきます。

 

 そして5コマ目、ニモたちはサンタの後ろ姿をとらえました。車の音がうるさいので(4コマ目でフリップがそう言っています)、後ろでニモたちが「おーい!」「止まれえ!」と大声を出すものの、サンタはそれに気づきません。

 

 すると6コマ目、なぜか車が爆発して、サンタが吹き飛ばされてしまいます。ニモたちは爆風を受けて腕で顔を覆い、近くに転がっているびっくり箱はふたが開いて妙な人形が驚いています。

 

 7コマ目を見ると、車は大破してはいないようですね。ただ所々、煙が上がったりひびが入ったりガラスが割れたりしているようです。

 

 ところで私は、コマ右端の、ニモの顔に似た人形の破片が不気味なんですよ。他にもおもちゃはあっただろうに、なぜ人形の顔の破片なのか、怖いじゃないですか。

 

 二点透視図法の右側の消失点に向かって、なにかの破片と、サンタの帽子と、人形の破片とがつづいていて、なんとなく寂しさがあるというか、死んでるというか。薄暗いし。しかもその先は夢から覚めた8コマ目なので、「夢の世界の終わり」感を感じます。

 

 一方で左側の消失点に向かっては、サンタと車からニモたちへという流れがあって、キャラクターの騒がしさがあります。サンタはプレゼントのおもちゃのことより、車がダメになったことに失望しているようです。「最新式にしてたのにこれか! これからはトナカイだな」。ニモが遠くで「あの人どうかしてるよ!」と罵るのも無理はありません。