いたずらフィガロ

むかしのアメリカのマンガについて。

リトル・ニモとバレンタインの絵本

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 1908年2月9日『ニューヨーク・ヘラルド』の「眠りの国のリトル・ニモ」です。

 

 ニモたちが大きな扉の前にいるところから始まります。が、これは残念ながら「幻惑の間」の外に出るための扉ではなくて、大きな本の表紙なのでした。

 

 開いてみると、プリンセスがあらわれます。プリンセスの絵の下にはキャプションがついていて、「私の恋人になってくれませんか、リトル・ニモ? 私はあなたのものよ!」と、熱烈なラブコールが書いてあります。

 

 ここで「恋人」の英語は Valentine となっています。バレンタインデーが近いからですね。

 

 次のページにはモルフェウス王が描かれていますが、キャプションはこうです、「お休み中のモルフェウス王、まるでビール会社の看板のようです。どこでそんな赤い鼻になったのでしょう? バレンタインの人みたい」。

 

 たしかにモルフェウス王の手には杯があり、ビールの泡のようなものが見えます。赤い鼻のおじさんが描かれたビール会社の看板がこの時代にあったのかどうか、私はわかりませんが、もしかしたら Valentine ではなく Ballantine のことなんでしょうか(P. Ballantine and Sons Brewing Company - Wikipedia)。

 

 また、バレンタインデーには赤い花を送る風習がありますが(Valentine's Day - Wikipedia)、赤い色そのものとバレンタインデーが結びつけられているために、鼻の赤に注目しているのかも。

 

 次はドクター・ピルです。アヒルに乗っていますが、これはおそらくアヒルの鳴き声 quack が「やぶ医者」を意味するからだと思います。こいつはほんと、薬さえ処方してればOKみたいなひどいやつなんですよ。

 

 キャプションにも「ドクター・ピル、人を病気にするやつ。病気を治すんじゃなくて。みんな知ってる、あんたは薬をくれる、そのちっぽけな脳みそで」とあります。ふつうに悪口言われてる。

 

 その後、(久しぶりの登場にもかかわらず)ひどい顔のキャンディ・キッドがあり、次に完全にサルの姿のジャングル・インプが描かれたページです。いまではまず見られない表現ですね。

 

 そしてフリップ。「出ました、生意気な顔のフリップ! ほんとにくちびるがデカすぎ! かれはクルマにひかれるでしょうね、それか、ゾウのかかとに頭をふまれるに決まってる」。これも悪口です。これを見たフリップは「これを描いた生意気なやつはムチ打ちだ」とムカついてます。

 

 最後にニモ。「ちぢれ頭のニモ! きみの寝床(nest)へお帰り。起きろ、目を覚ませ、さもなきゃ眠れ! そうすりゃオレらが休めるからさ」。髪の毛が爆発していて、鳥の巣(nest)のようですね。

 

 「起きろ」も「眠れ」も、要するに夢の世界から出ていってくれ、ということでしょう。現実世界のニモは、最後のコマで、うまく眠れないのを大きすぎる枕のせいにしています。