いたずらフィガロ

むかしのアメリカのマンガについて。

レアビットと500万ドルの悲劇

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 1905年4月22日『ニューヨーク・イブニング・テレグラム』の「眠りの国のリトル・ニモ」です。

 

 身なりのよい男性ふたりが、椅子に座りながら話をしています。内容はこうです。「わたしはあなたに実験を試みてもらいたいのですよ。500万ドルを差し上げますから、あなたがふさわしいと思うやり方で使っていただきたい」「感謝します、カーネギーさん、そのお金で最善を尽くしましょう。うまく生かしたいと思います」。

 

 カーネギーさんとはもちろんアンドリュー・カーネギー、アメリカの実業家です。事業で得た富を慈善活動に使い、アメリカのあちこちに大学やら図書館やらを作った人です。上のマンガが掲載された頃にはもう慈善事業をばんばんやっていました。

 

 カーネギーさんと話をしている男性がどんな人なのかはわかりませんが、彼は500万ドルを受けとります。500万ドルというのはとんでもない大金です。カーネギー技術学校(現・カーネギーメロン大学)が作られたときにカーネギーが出したのが200万ドルだったそうですので、500万ドルあれば一流大学ふたつと図書館ひとつくらい作れますね。

 

 大金をもらった男性はそれを布袋に入れて自宅に持ち帰りますが(不用心すぎるだろ)、その後、思い悩み始めます。3コマ目で「なにに使えばいいのかわからない...受けとらなきゃよかったよ」と、早くもお金の使い途がわからなくなってます。

 

 おそらく奥さんが呼んだんでしょう、医者が4コマ目に来ています。「このままだと確実に気が狂いますよ」と突き放した感じですね。悩める男性は手で顔を覆って「ああ、どうすればいいんだ...」と、苦しい様子です。

 

 で、次のコマ、「お人形さん! おしりぺんぺんしますよ、行儀よくしなさい、聞いてるの?」です。ついに一線を越え、女の子のようになってしまいました。と同時に今度は奥さんが悩み始めます。

 

 6コマ目では「気をつけろ! おれはテディ・ルーズベルトだ! 撃つぞ!」と、木馬に乗って楽しそうに遊んでますね。奥さんのほうも、もうどうでもよくなったのか、「理性よさようなら! わたしはもうダメだわ、あああ」と叫び始めました。共倒れです。

 

 その後、奇抜な格好をして歩いているところを、警官に連行されます。最後はもう人間性さえ失ってしまい、鎖につながれています。精神病棟でしょうか。

 

 ウィンザー・マッケイはこれまで、サーカスや見世物小屋など、自身の周囲の環境をそのままマンガに描くことがよくありましたが、じつは精神病棟にもなじみがありました。というのも辛いことに、ウィンザーの兄弟のアーサー・マッケイが1898年、病気のために精神病院に入り、1946年に亡くなるまでずっとそこにいるのですね。

 

 最後のコマ、夢オチの場面ですが、どうやらこの夢を見ていたのは奥さんのほうでした。この女性はいつもお金の心配をしているんでしょうか。でも、夫が大金の責任に耐えられない男であることや、夫にあわせて自分も気が狂うこと、それに狂人の具体的な姿まで夢に見るとはすごいです。