いたずらフィガロ

むかしのアメリカのマンガについて。

リトル・ニモと電話

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 1908年4月26日『ニューヨーク・ヘラルド』の「眠りの国のリトル・ニモ」です。

 

 仲間とはぐれ、ひとり貧民街にやってきたニモは、たまたま出会った病気のシスター・メアリーを魔法の杖で回復させました。さらに、魔法の杖で石くれを電話に変え、シスター・メアリーに「眠りの国の人に電話してほしい」と伝えます。というのもニモと仲間たちは、プリンセスのいる眠りの国の宮殿に戻れなくなっていたところでした。

 

 今回のエピソードは、マンガ全体を見るとすぐにわかりますが、左半分がニモとシスター・メアリーのいる貧民街、右半分がプリンセスのいる宮殿になっており、左右は電話によってつながれています。じつは、宮殿にはすでに、ニモの仲間のジャングル・インプとフリップが戻ってきていました。

 

 ところが、英語を話せないジャングル・インプが電話に出てみたり、ドクター・ピルがフリップを押しのけて電話に出たために喧嘩になったりと、宮殿側がシスター・メアリーの話をきちんと聞いてくれません。

 

 ニモがシスター・メアリーに電話させたのは、自分の懸賞金160億ドルをシスター・メアリーの住む貧民街に与えたいからなのですが、電話での話が通じずどうもうまくいきません。とはいえ、ニモは魔法の杖で、貧民街をきらびやかな宮殿に変えていきます。160億ドルいらないのでは...。

 

 ところで吉見俊哉『「声」の資本主義』(講談社選書メチエ、1995年)によれば、電話の歴史初期に重要な役割を果たした電話交換手という職業は、当時、女性の方が向いていると考えられていたということです。「採用された少年たちは、たしかに電信には詳しくとも、電話コミュニケーションの媒介者としてはまったく不適格であった。彼らは、とても交換台の前で何時間も黙々と坐って作業を続けることには耐えられず、顧客をネタにした冗談をとばし、ついには床の上でレスリングまで始める始末であった」(p.120)。

 

 フリップ、ドクター・ピル、ジャングル・インプの喧騒にうんざりしているプリンセスの姿を見ると、たしかに、男は電話に向いてないと信じられていたのかな...と思わざるを得ません。

 

 でもこれがたとえば「親爺教育」のマンガになると、妻マギーのおしゃべりに夫ジグスがうんざりする、という話になります。電話メディアという軸でマンガをいろいろ見てみると楽しそうだなと思います。