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いたずらフィガロ

むかしのアメリカのマンガについて。

イエロー・キッドとマザーグース・ヴォードヴィル

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 1897年1月10日『ニューヨーク・ジャーナル』の「イエロー・キッド」です。

 

 イエロー・キッドはどこだ...あ、いました、画面右下のほうの、ステージのへりに立ってますね。いちおうスポットライトを当てられてはいますが、あまり効果的とはいえず(むしろ照明係のほうが目立っているかも)、それ以上にステージ上がごちゃごちゃしすぎていて、いつもよりはイエロー・キッドが読者の注意を引いていないように思います。

 

 寝巻きには「ボクは舞台マネージャーなんだけど、みんなステージに上がってきちゃったよ...すぐに自分の番をやりたいんだね」とあります。出演者の順番をコントロールできず、みんな一挙にとびだしてしまった、ということのようです。となりではヤギが「この書き割りうめえ」と舞台背景を食べていますが、もしかしてこれは演目なんでしょうか。オウムは「あのヤギみたいに胃腸が強かったらなあ」と、ヤギの消化能力をうらやましく思っているようです。

 

 えーと...ごちゃごちゃしてるな。どこからはじめようか。このマンガにはキャプションがついていないので、しいてタイトルを付けるとすれば、画面左上の赤字の看板「イエローキッドマザーグース・ヴォードヴィル社」でしょうか。イエロー・キッドは有限会社を立ち上げたようです(法的な手続きとかは一切無視してるとは思いますが)。

 

 すぐとなりの看板には「女性のみなさまは、大きな帽子をかぶるのは自己責任でお願いします。空中ブランコ芸人があちこちに落ちてきて、帽子をダメにすることがあります」と書かれています。当時の女性たちは、ファッショナブルな帽子を競って求めていたようですので、そのムーブメントを受けての注意書きですね。

 

 さらにとなりには、「この背景は調和がとれていませんが、管理できるという点ではいちばんいいものです」と書かれた看板があります。どういう意味だろう。絵が描いてあるだけのシンプルな板ばかりですみません、ということかな。それって看板に書く意味あるのか。そんなことより出演者の順番を管理してほしいですけど。

 

 吊るされているリッカドンナ・シスターズに沿って、視線を舞台のほうに下ろしてくると、「アパート・カルテット」が歌っていて、その近くには握手をしようとするふたりのこどもがいます。「おお、インドの友よ(me friend from India)」というセリフは、当時人気だった喜劇「インドから来た友人(My Friend from India)」(Walter E. Perkins - Wikipedia, the free encyclopedia)への言及でしょう。

 

 彼らの背景には、のぞき穴から顔が見えたり、窓から身をのり出すこどもがいたりします。本当にそこに開口部があるのか、それとも開口部を描いた絵なのかはわかりません。それと、巨大な鉄アレイを持っているマッチョなこどもがタバコを吸っていて、煙が Sandow の文字を示していますが、これはユージン・サンドウというボディビルダーのことです(Eugen Sandow - Wikipedia, the free encyclopedia)。

 

 他にもまだまだありますね。ステージの前のほう、向かって左側の、ローズマリーと書かれた赤い服の少女は「大好きなお母さんのお金が見たいのよ〜」と歌ってます(なんつー歌...元ネタはなんだろう)。彼女のとなりには王冠をかぶった「ハーフ・ア・キング」がいて、さらに「コール王(Ole King Kole)」と書かれています。マザー・グースですね(Old King Cole - Wikipedia, the free encyclopedia)。近くには「長靴をはいた猫」もいます。

 

 赤い寝巻きを着て、らっぱを吹いている少年は、立ち位置としては主人公格ですね。寝巻きにびっしりと文字が書かれているところなんか、イエロー・キッドそのものです。「ボクはリトル・ボーイ・ブルー」と言ってますが、これも英語圏のわらべ歌(Little Boy Blue - Wikipedia, the free encyclopedia)で、他にもキティ・デュガンの大きな帽子に「リトル・ボー・ピープ」(Little Bo Peep - Wikipedia, the free encyclopedia)とあります。

 

 いやあ、もう、ネタがちりばめられていて、わたしのような一世紀後の日本人にとってはひとつひとつ追っていくのが大変ですが、楽しくもあります。

 

 ところで、絵のうえの活字文には、いつもなら最後に「E・W・タウンゼント」という作者の名前が書かれているのですが、このマンガにはそれがなく、かわりに「ミッキー・デュガン」というイエロー・キッドの本名が書かれています。どういうことでしょうね。あと気になるのは、紙面のいちばん左上にあるイエロー・キッドの絵です。ずいぶんと雑な感じに仕上がっていて、おそらくアウトコールトではない、別の人の絵じゃないかなと思うのですが、わたしはこれに妙な味わいを感じます。ヘタウマ。