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いたずらフィガロ

むかしのアメリカのマンガについて。

イエロー・キッドと世界一周へ

イエロー・キッド

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 1897年1月17日『ニューヨーク・ジャーナル』の「イエロー・キッド」です。

 

 タイトルが「マクファデン通り」ではなく、「イエロー・キッドと世界一周」にかわっています。赤く太い字で描かれていて、また文字の背景には、くねくねと曲がった道をイエロー・キッドが旅する様子が、うすい色で描かれています。

 

 文章の作者も、これまでのE・W・タウンゼントではなく、ルドルフ・ブロックという人ですね(Rudolph Edgar Block - Wikipedia, the free encyclopedia)。ユダヤ系アメリカ人の記者・編集者で、アウトコールトと同様に『ワールド』から『ジャーナル』へと移籍してきた人のようです。

 

 世界一周ということで、いまイエロー・キッドたちは船に乗り込んで、まもなく出港というところです。旅の理由や旅程などはわかりませんが、キャプションには「ヨーロッパへ向けて」とありますので、まずは大西洋横断ですね。

 

 キャプションには「イエロー・キッドたちが暴れるつもりのない、衰退した君主制の地」とも書かれていて、またイエロー・キッドの服にも「気の毒なヨーロッパではなにもしないよ」とあります。翌年に戦争をはじめるスペインのことが念頭にあるんでしょうか。当時スペインは王制でした。イギリスは最盛期だし、ロンドンはニューヨークの倍近い人口がいたし、さすがに「衰退」「気の毒」と言えるような君主制国家ではなかったと思います。

 

 イエロー・キッドは赤い箱(旅行かばんかな)の上に立っていて、その箱には「プリンツ・オブ・ホエールズとヨーロッパの無能への紹介状」とありますね。プリンツ・オブ・ホエールズ(de prints of whales)とはもちろんプリンス・オブ・ウェールズ(the Prince of Wales)、英国皇太子のことですね、クジラの印刷物になってますが。

 

 赤い箱のわきにも寝巻きの少年がいます。「メガホン持ってこれてよかったよ、ヨーロッパの人たちと話をする仲になれればいいなと思って」だそうです。どんな大群と話をするつもりなのか。もう片方の手には手榴弾を持っていますよ、物騒ですね。箱の反対側にはヤギが顔を出してます。「トランクのカギがあればなあ」と言ってますので、中身を食べるつもりでしょう。

 

 船の上はとてもにぎやかで、甲板だけでは人が入りきれないのか、船の縁から上空にのびる網に、旗を持って立ってるこどもが何人もいます。船室の屋根の上にすわるこどももいますね。さらに上空では、真っ逆さまに落ちる少年が復活しています。「デッキの上に落ちたいな」と言ってますが、この高さではどこに落ちても大惨事でしょう。それにしても復活してくるとは思いませんでした。読者からの要望でもあったかな。

 

 港にも、船の旅たちを祝う人たちがたくさんいます。楽団員たちが屋上にいて、ドラマーが復活した落下少年を指さしています。彼らは「合衆国蒸気船航路(United States S. S. Line)」と書かれた看板の裏にいて、その看板の左右からひとりずつ姿をあらわしていますが、向かって右の、黒いスーツの人は「ヨーロッパがあいつらをどう扱うのか見てみたいものだ」とつぶやいています。わたしもそう思います。

 

 そのすぐ下には、へんな双子がいますね。胸にそれぞれ「ジョージ」「アレックス」の名前があります。これはじつは、『ニューヨーク・ワールド』でジョージ・ラクスが連載中の「イエロー・キッド」に登場するキャラクターです(以下のサイト内の画像をご参照ください:George Luks: The “Other” Yellow Kid Artist | Hogan's Alley)。わざわざホーガン横丁からやってきたんですね。手には「ボクたちは行かない、残るよ」と書いてある旗を持っています。ニューヨークのことはまかせろ、ということでしょうか。

 

 一階で見送る人たちのなかには「テディ」と書かれた人物がいます。セオドア・ルーズベルトでしょう。1897年当時はニューヨーク市の警視総監で、同年、マッキンリー大統領のもとで合衆国海軍次官となります。そのとなりには「ウィリアム」という名の人物がいます。ウィリアムはいろいろいるわけですが、1897年にニューヨーク市長を務めていたのがウィリアム・L・ストロングという名の人物でした。それから、画面右端に「チョーンシー」がいて、これはチョーンシー・ドピュー、ニューヨーク・セントラル鉄道の社長です。

 

 というわけで、なかなかの要人たちがイエロー・キッドたちを見送りにきています。ルーズベルトたちは、人気者のイエロー・キッドに諸国漫遊してもらえば世界の人々がニューヨークを好きになってくれるにちがいない、と考えていたのかな。イエロー・キッドを親善大使に任命しているように思います。ただ、行った先の治安を乱す可能性もゼロではない、というところが若干不安です。