レアビットと群がるヘビ
1905年7月29日『ニューヨーク・イブニング・テレグラム』の「レアビット狂の夢」です。
き、きもちわるい...。ヘビがうじゃうじゃといるのが見えますね。じっさいにこんなことになったら、と想像しただけで身の毛がよだちます。
物語は、白いスーツの男がヘビを一匹見つけるところからはじまります。「やあ、ヘビだ。ヘビってのは害がないのに、みんな怖がるんだよね。どうにかして...」「ヘビを手なずけたいな。なに、大丈夫さ、簡単なことだ。子猫みたいなもんだろ」という具合に、男はヘビに近づき、腰をかがめてヘビを捕らえようとします。ペットにするつもりですね。まあたしかに、一匹だけならわたしもそんなに怖くないかも。
3コマ目、男はヘビの捕獲に成功します。「なんでヘビは嫌われてるんだろうね、このヘビなんか美しいのに。すてきな模様をしてるなあ。ヘビのペットっていうのは聞いたことないけど...」「犬や猫よりかわいいし、とってもやさしいよ。わたしはヘビが大好きだな。このヘビかわいくない?」。
男はつかまえたヘビに夢中で、ヘビの魅力を読者に語りかけようとしているのか、笑顔でこちらを向いています。一方、足下に何匹かヘビが近寄ってきていることには、まだ気づいていません。
「この子をポケットに入れて、持ち帰ってペットにしよう。家でしつけることにしよう」と、男はスーツのポケットにお気に入りのヘビを入れています(5コマ目)。あたりにはヘビがどんどん増えてきて、コマの上の枠線からも、ヘビが垂れ下がっています。画面には見えませんが、木の枝が頭上を覆っているのでしょうか。それとも洞窟のような場所なのか。あるいは単にコマの枠線を伝うヘビなのかもしれませんが。
男は「あと何匹か、こいつらの中からかわいいのを持っていこう」と言って、足下に群がるヘビを品定めしはじめました。いやー、これほどの量になってしまったら、わたしだったらもう卒倒するのではと思いますが、この男は平気なんですね。子猫が群がってる感覚なんでしょうねきっと。
男の様子がおかしくなるのは7コマ目からです。「あれ? あの子がいないぞ、どこだ? どこにいったんだ?」。最初にポケットに入れた、お気に入りのヘビがいなくなってしまいました。
どこにいったんでしょう。男はポケットのあちらこちらをまさぐっています。すると次のコマで「きっとわたしの服のどこかにいるんだろう。どこにいったんだ...あ! 背中をのぼってる?」と、ヘビの居場所に気づきはじめました。ヘビはポケットから出ていって、服の別の場所をはっているようです。おお。
ヘビはなおも男のからだをうねうねとはっていますが、男はつかまえられません。「わたしのからだをはっている...からだに巻きついてるぞ、ああ! 助けてくれ!」と言う男は、このまま絞め殺されてしまうのでしょうか。
この間も、群がるヘビたちの数はどんどん増えています。おぞましいですね。男はまだヘビのことが好きなのでしょうか。殺されそうになっているので、もうそんなに好きではないかもしれませんね。あれだけ男にかわいがられていたヘビですが、物語の後半からは、ヘビの群れが男の不安と恐怖を象徴的に示すものと感じてしまいます。