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いたずらフィガロ

むかしのアメリカのマンガについて。

レアビットと現像液

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 1905年8月2日『ニューヨーク・イブニング・テレグラム』の「レアビット狂の夢」です。

 

 「このクローゼット、きれいに掃除しなきゃダメね。ひどい状態だわ。ああひどい...これなにかしら? トレーになにか乗ってる? なんなのかわからないわ」、という女性の言葉ではじまります。...うちも掃除しなきゃな、まったくひどい部屋がひとつあるんですようちに。引っ越ししたころからかわらずひどい場所で、なにがあるのかわたしにもよくわかりません。

 

 女性はトレーを引き出し、なかを見つめます。なにが入っているのかは読者には見えません。女性が「これなんだろう、だれがここに置いていったのかしら...捨てようかしら、でも、捨てないほうがいいのかな、んー」と思い悩んでいますが、なにを見てそう言ってるのかはわかりません。

 

 女性はクローゼットの掃除よりも、トレーの中身のほうが気になりだし、トレーに顔を近づけてにおいを嗅いでいます。「わからないけど、捨てたほうがいいのかしらね...ちょっとにおい嗅いでみよう...わ! 鼻についた!」。液体でしょうか。

 

 「きっとあれよ、ウィリーの写真用品よ、現像液だわ、そうだそうだ」ということで、どうやら現像液が入ったトレーだったようです(ウィリーがだれなのかはわかりません)。いまはもう、一般家庭に置いてあるものではなくなりましたが、かつては現像液は人々の日常を構成する一要素だったんでしょうかね。ちなみにわたしがこどもの頃は、小さくて白くて半透明のフィルムケースが日常でしたが、最近は見てません。

 

 トレーの中身が判明した女性は、謎が解けてスッキリしたので、ふたたびクローゼットの掃除にとりかかろうとしています。「さて、どう掃除しようかしら。ちょっと鼻が変な感じするけど、掃除しなくちゃね」。ああ、5コマ目で女性の鼻がすこし伸びてますね。

 

 次のコマではさらに長くなっています。「ん! 鼻が重く感じるわ。ああ! なにこれ? 鼻が! たいへん!」と、女性も鼻の異常に気づき驚いています。ピノキオのようですね。

 

  1コマ目から6コマ目まで、クローゼットがきまってコマの左側に垂直に描かれていて、それが1・3・5コマ目をひとまとめにし、それから2・4・6コマ目にもひとつのまとまりができています。コマを貫く柱が立っているようですね。ここまでが物語の前半です。

 

 物語の後半では、女性はさらにあわてています。鼻がどんどん伸びていってるからです。「アイリーン、お医者さまをはやく呼んできてちょうだい! ああ、お医者さまを!」「なんてことだあ」「助けてください、先生、おお」「なんてこった! あなたどこでこんなことに?」

 

 医者はすぐに、鼻をのこぎりで切り落とすという荒療治に出ます。「おお! 先生! やさしくお願いします! うう、痛い」「じっとしてて! これを切り落としますから。動かないで!」。

 

 さて、なぜ女性の鼻がこうも伸びてしまったのか、ですが、話の流れからして鼻を現像液につけたのが原因です。現像液は英語で developer といい、「伸ばすもの、成長させるもの」という意味です。「レアビット」によくある、言葉の意味をわざと取り違えて視覚化するやつですね。

 

 今回のエピソードで珍しいのは、この夢を見ていたのがこどもだということです。ベッドから身をのり出すこどもが「眠れないよパパ、寝るのがこわいよ、こっち来てよパパ」と声をあげていますが、パパは姿を見せず、こどもにむかって「もう寝るんだ、寝なさいウィリー」というだけです。ウィリーとはこの子だったか。