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いたずらフィガロ

むかしのアメリカのマンガについて。

リトル・ニモと秘密の地下通路

眠りの国のリトル・ニモ

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 1906年6月10日『ニューヨーク・ヘラルド』の「眠りの国のリトル・ニモ」です。

 

 前回、お姫さまのそばにいたドクター・ピルですが、今回はニモのところにやってきました。お姫さまの体調がすぐれず、早くニモを連れてこなければという思いで、自らニモのもとへやってきたわけです。

 

 ニモはというと、第四の門で剣士のような格好をしていたので、いまそれを着替えているところですね。家来とともに更衣室にいます。そこへドクター・ピルがやってきました。

 

 小人に「ニモはここにいます」と教えられたドクター・ピルは「もう十分だ、さがれ」と偉そうに言ってます(この小人はなんか気になりますね。なんでこの家来だけ小人なのか)。ドクター・ピルは家来たちに「眠りの国の賢人」と呼ばれているし、それにお姫さまのかかりつけの医者ですし、じっさい偉いんでしょう。

 

 さて、ドクター・ピルはニモに会うと、ろくにあいさつもせず、かばんを開けて、なにか瓶のようなものを取り出しています。そしてニモに、自分がここに来たのは君を目覚めさせないようにするためだと説明し、ニモに薬を手渡します。

 

 その後もドクター・ピルは「目が覚めそうだなと思ったらすぐに私に声をかけるんだ。薬をやるから。ぜったいに目覚めてはいけないぞ」と言っています。なかなか怖い薬を持ってますね...。

 

 一行は宮殿に向かって歩き続けます。お供のキャンディ曰く、「ここは宮殿に向かう秘密の地下通路なんです。用事のない人にとっては恐ろしげな場所ですが、気にすることないですよ(This is the secret underground entrance to the palace and is a frightful place for those to be who have no business here. But don't you mind)」だそうです。

 

 しかし、ニモにとってこの通路はだんだん恐ろしげな場所になっていきます。気味の悪い巨大な虫や鳥が現われますし、ごつごつとした壁には無数の顔が、それも悪魔のような顔がニモを見つめています。

 

 ニモは虫を見ると「あれジャガイモ虫? 噛むの?」と尋ね、キャンディは「怖がることありません」と答えます。また次のコマでも、ニモは「怖くはないよ、でもあれは何?」と怪鳥を見て驚いている様子です。ニモは怖いのか怖くないのか、どっちなんだろう。ただ、キャンディは「目を覚ましてはいけない!」と詰め寄るし、ドクター・ピルは「早く薬を飲んで!」と言ってくるしで、むしろお供の人たちのほうがちょっと怖い。とくに「薬飲めよ」と言ってくるのは怖い。

 

 いちばん下のコマでは船が待っていて、ドクター・ピルがニモを促しますが、ニモは「どうしてワニがいるの?」と、まるでドクター・ピルの話が聞こえないようです。このコマは色を失っていて、自分や周囲は暗く、遠くの建物は金色に光っていて、その光が淡い色の水面に映っています。このコマだけ雰囲気が全然ちがいますね。

 

 ちょっと思うのは、ニモは薬を飲まされてからずっと幻覚を見ていたんじゃないか、ということですね。キャンディやドクター・ピルは、ジャガイモ虫や怪鳥、ワニのことを一言もしゃべっていないんですよ。ニモだけが見ている怪物だったんじゃないか。キャンディが「ダメ医者じゃないか! 来なきゃよかったのに(That doctor is no good! I wish he'd stayed away)」と言ってるのもつまり、「目が覚めない薬っておまえ、幻覚を見続けさせるってことかよ!」という意味なのかなあと。

 

 そう思うと、いちばん下のコマの色を失っている世界が、よりいっそう幻想的というか幻覚的というか、ともかくまったく普通でない世界のように感じます。もともとの地下通路自体も恐ろしげな場所ですが、薬の作用でニモはもっと恐ろしい場所に来てしまったようです。