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いたずらフィガロ

むかしのアメリカのマンガについて。

リトル・ニモと警備のやりすぎ

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 1906年9月16日『ニューヨーク・ヘラルド』の「眠りの国のリトル・ニモ」です。

 

 王様がこどもたちを集めてカーニバルをするということで、ニモたちがそこに向かっているところです。しかし警備がかなり厳重で、前回は恐ろしいトラたちのあいだを通ってこなくてはなりませんでした。

 

 最初のコマ、中央になにやら門が作られていて、入口の上部に文章があります。「モルフェウス王はカーニバルに招かれざる者の安全について責任を持たない」だそうです。完全にフリップを念頭に置いた言葉ですね。また、入口の両側にも文字があって、それぞれ「善人は幸福に」「悪人は不幸に」と書いてあります。

 

 これまで言ってなかったような気がしますが、ここの王様の名前はモルフェウスといいます。オウィディウス『変身物語』に登場する、古代ローマの夢の神様ですね。また英語読みだとモーフィアスで、ウォシャウスキー姉妹『マトリックス』のローレンス・フィッシュバーンを思い浮かべる方もいるのではないでしょうか。あんなゴツい人に「身の安全については保証しない」なんて言われたら、ちょっと怖じ気づくな。

 

 ニモたちは門をくぐるとまず、「10トン」と書かれた錘が天井に並ぶ通路を通ります。それぞれの錘はひとつひとつロープでつるされ、固定されていますが、ロープごとに屈強な男が鉈を振り上げたままスタンバイしていて、いつでも10トンの錘を落とすことができるようになっています。

 

 どう考えても危ないですよね。こんなところをお姫さまが通っちゃいけないですよ。うしろでキャンディが「むかしまちがってロープを切られて、下にいた客人たちがぺちゃんこになったことありましたよ」と穏やかな顔で言ってますね。まったく理解できない。

 

 次の通路には、無数の大砲が道の左右を固めています。やはりいつでも発射できるようになっていますが、これ発射したら、招かれざる者のみならず向かい側にいる砲撃手も死ぬのでは...。

 

 いずれのコマも、通路がコマの対角線上にのびていて、読者の視線を奥のほうに誘っていますね。画面手前にいる、鉈の男や砲撃手がめいっぱい大きく描かれていて、それもまた画面の奥行きを強調しています。それにしてもこんなふうに大きく描かれると、読者はニモだけでなく、こうした護衛たちにも自らを投影して、鉈でロープを切り落としたり、大砲に着火したりする自分の姿を想像するのではないでしょうか。

 

 4コマ目では、ニモたちはコマの左下から右上にのびる線遠近法の空間を横切ります。下で燃える火のカラーリングが細やかで、ところどころ青いのがいいですね。ロープを進む円形の乗り物は、人がこんなに乗って大丈夫なんでしょうか。

 

 この円形の乗り物はこのあと、画面手前の、半円にくぼんだところにがしゃーんとはまるんでしょう。なんかこう、スーパーロボットの胴体と足が合体するような、ある形がしかるべき場所にしっかりはまるイメージ、大好きです(笑)。このコマはそういう読者のイメージを促して、コマのなかに時間を持ち込んでいるように思います。