いたずらフィガロ

むかしのアメリカのマンガについて。

イエロー・キッドとウサギ狩り

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 1897年1月24日『ニューヨーク・ジャーナル』の「イエロー・キッド」です。

 

 コミック・ストリップですね。コマが規則的にならんでいます。イエロー・キッドは猟銃を担いで、犬、猫、ヤギ、オウムとともに狩りに出かけています。寝巻きには「このギャングを見たらウサギはみんな逃げていくね」と書いてます。銃を持つこどもに加えて、獰猛なヤギがいますので、ウサギじゃなくとも逃げるでしょう。

 

 立て看板には「ウサギ森への立入禁止」とありますが、一行はまったくおかまいなしです。オウムは「どうやってウサギを持って帰るんだ?」と、しとめたウサギの運搬方法を早くも案じています。

 

 2コマ目、ウサギが現われました。ウサギなにか言ってるな、字が小さくて読みづらいですが...「わたしに会ったことみんなに伝えてよ」とあります! おお、このセリフは以前出てきました。ヤギがこの言葉を言ってました(イエロー・キッドと独立記念日(爆竹) - いたずらフィガロ)。

 

 「伝えてよ」とウサギが言ってるってことは、ウサギはつかまる気がないということでしょうか。犬は「あいつを撃つなよミッキー、「トゥルース」以来のジョークを一発はなってやれ」と言ってるのですが、なぜでしょう。狩りにきたんじゃないのかな。「トゥルース」というのはアウトコールトがかつてマンガを掲載していた週刊誌の名前で、のちのイエロー・キッドになりそうな寝巻きのこどもが『トゥルース』にすでに登場しています。しかしいずれにせよ、謎のセリフです。

 

 看板は1コマ目とは別のものになっています。「エドガー・マーフィー自然保護区:飛鳥射撃のみ可」と書いてます。エドガー・マーフィーという名の聖職者が当時いたようですが(Edgar Gardner Murphy - Wikipedia, the free encyclopedia)、関連はわかりません。今回はわからないことだらけだな。まあいつもわからないことだらけなんですが、コミック・ストリップは比較的わかりやすいと思っていたので、ちょっと認識が甘かったですね。

 

 犬に「撃つなよ」と言われたイエロー・キッドですが、3コマ目で銃口をウサギに向けています。犬も「しっかり狙って」と助言していて、どういうことなんだ。...もしかして、銃からジョークが出てくるのだろうか...。オウムは「あいつの左後ろ足がほしいね」と、幸運のお守りをもらうつもりです。ウサギの左後ろ足が幸運のシンボルなんて、ふしぎな慣習です。看板の上には鳥が何羽かとまっていて、「わたしたちは安全だ」とさえずっています。

 

 4コマ目、暴発です。これがジョークということなのか?(笑) でも、オウムが「あいつブードゥー教の魔術師だよ! ウサギじゃねえ」と慌てていますので、意図的なジョークではないのかな。イエロー・キッドの顔もすごいですね。ムンクのあれみたい。

 

 5コマ目でもこのギャングはショックを隠せない状態で、あの獰猛なヤギまでが、やつれた表情をしています。オウムはなおも超常現象を疑わず、「逃げようぜ、ここには幽霊がいる」と恐怖しています。猫もしっぽをピンと立てていますね。鳥たちは「当てられないのかい」「撃ってみなよ」と、身の安全を確信した様子です。そしてウサギは、2コマ目からまったく体勢を変えず、じっとこちらを見続けています。

 

 このマンガは、2コマ目以降、イエロー・キッドたちが画面手前にいて、標的が画面の奥にいるという構図です。イエロー・キッドが読者に背中を向けていて読者に顔が見えないというのはなかなかありませんし、またイエロー・キッドの(広い意味での)一人称視点というのも珍しい。それに、イエロー・キッドの背中には文字が書かれないのですね。お腹で話をするということなのかな。あるいは、顔が見えている状態でないと発話しないのかもしれない。

 

 6コマ目でギャングは逃亡を開始します。これまで微動だにしなかったウサギが突然こちらに駆け出してきたからでしょう。ウサギは「いっしょに遊ぼうよ」と言っていて、たしかに、ホラーの文脈でこの発言は怖いですね。イエロー・キッドは「デルモニコス・カフェに行きたい」と、ニューヨークのレストランの名前を出してます。落ち着く雰囲気の場所、ということでしょうか。犬は「このことはだれにも知られたくない」と、自分たちの無様な格好を恥ずかしく思っているようです。