いたずらフィガロ

むかしのアメリカのマンガについて。

レアビットとレアビット禁止法

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 1905年6月3日『ニューヨーク・イブニング・テレグラム』の「レアビット狂の夢」です。

 

 なにやらいろいろな人が登場していますね。夢オチ直前のコマで、警官たちがだれかを連行しているようですが、何があったのか。順に見ていきましょう。

 

 最初のコマで黒い服の男が「レアビットがすごく食べたい」と言っています。まさにレアビット狂ですが、つづけて彼は「あいつ、このあたりの密売人を見張ってる男ではないようだが、ちょっと行ってみるか」と、向こうにいる男を見ながら変なことをつぶやいています。

 

 2コマ目、レアビット狂は男に話しかけます。「いいレアビットを探してるんだが」と、男に視線を合わせずに伝えています。相手の男も、この種の質問には手慣れているようで、「あそこの警官が見えなくなるのを待て、他言無用だぞ?」と慎重さを見せています。

 

 ここまで、speakeasy(密売人、もぐり)や procure(売春婦などを斡旋する)など、公にバレてはいけないことを密かに行うときに使うような言葉がちらほらあり、3コマ目でも「おい、赤線(Say Redlight)」と、売春地域を示す名前で呼ばれている男が登場します。ひとり目が客、ふたり目が仲介人ですね。そして三人目はどうやら、レアビットを扱う業者のようです。仲介人は「この人は大丈夫だ、早くつれていけ」と業者に説明し、客も「だれも見てないから行こう」と言っています。

 

 4コマ目でレアビット業者は「ぜったい黙っててくださいよ」と念を押しています。客の男は待ちきれない様子ですね。「大丈夫だ、おいしいレアビットを食べたらすぐに帰るよ、心配ない」と、ようやくレアビットが食べられるという期待に満ちています。

 

 この状況の真相がわかるのが5コマ目です。客はレアビットを待ちながら「レアビット禁止法(that law no making or selling of rarebits)を考え出したやつは、まったくとんでもない男だよ」と、レアビットを製造販売することが禁じられてしまった世界を嘆いているのです。レアビットはこの世界では違法なのですね。なので人目を忍ぶ必要がある。

 

 レアビット業者は料理人にレアビットを作らせ、レアビットを乗せた皿を客に持ってきます。客は「法律なんかかまうものか」と、とにかくレアビットが食べたい一心ですが、そうとう神経を尖らせている業者は「待って! だれか来るぞ、警察じゃないか」とびくびくしています。で、案の定、7コマ目で警官が店に入ってきました。

 

 警官は「おい、見たぞ、レアビットを出してたな?」と業者を睨みつけています。業者は上着のなかにレアビットの皿を隠していたのでしょうが、警官に見つかり、証拠品を上着から取り出すところです。レアビットを服のなかに隠すなんて相当パニックですね。まちがいなく服が汚れますよ。客は「困ったことになった...」とつぶやいています。フォークとナイフを手にしていますので、もう観念するしかない。

 

 警官たちは客に向かって「ご同行願えますか」と威圧的にふるまい、客は「こんなのってないですよ、わたしはアメリカ国民だ...」と、弱々しく抗弁しています。表情は暗いですね。9コマ目で連行されているのは、レアビットの客と業者でした。野次馬のこどもたちが「来てみろよ! ウサギ小屋(a rabbit hutch)が走るぞ!」と騒いでいます。もちろんこの場合の rabbit とは a welsh rabbit = rarebit のことですね。ウサギ小屋とはなかなかいいネーミングです。