いたずらフィガロ

むかしのアメリカのマンガについて。

レアビットとクラップス

f:id:miurak38:20161119093036p:plain

 1905年11月11日『ニューヨーク・イブニング・テレグラム』の「レアビット狂の夢」です。

 

 ふしぎな絵ですね。大きなサイコロがふたつ、「証券取引所」と書かれた建物の屋上から落とされています。屋上にはふたりいますね。

 

 「おまえ、おれとおなじ額を賭けてばっかりだな、今度は1000か、おまえもう50万おれに借りてんのよ? わかってんの?」「わかってるさ、おれは何度だって同額を賭けるぜ、次の1000こそ勝つ!」、という会話です。

 

 投げたふたつのサイコロの和が7になれば勝つ、というルールのゲームは「クラップス(craps)」と呼ばれます。わたしも詳しいルールは知りませんが、カジノで人気のゲームらしいですね。

 

 サイコロが落とされました。むかって左の男が「来い! 7だ! 来い!」と声をあげます。サイコロはまっすぐ落ちて、見事、1・6が出ました。「っしゃあ! 勝った! もっとやるか?」「やるとも、まだ金はある、流れはかわるさ」。

 

 サイコロはクレーンで引き上げられ、次のゲームに入ります。負けたほうが「次は10000だ」って言ってまして、賭け金が10倍ですね。相手は「もしこれで勝てば、おまえから20000勝ったことになるな」ということですが、負けてるほうは意に介さず、ゲーム続行です。

 

 「来い! 7だ! 7! 金はおれのものだ!」。そして7コマ目、5・2が出てますね。またしても7でした。「また勝った! 7だ! どうだい?」「くそう、残念だ。あのサイコロ、いんちきなんじゃないのか。さあ次だ」。サイコロの不正を疑いつつも、まだやるつもりですね。破滅への道をひた走ります。

 

 「おれはおまえを破産させたくないんだよ」「気にするな、さあ、次こそ運命を左右するときだ。おれは全財産の500万を賭ける」。大勝負に出ました。

 

 「やるぜ、こんどは500万なんだな?」「サイコロを転がすんだ! 有り金ぜんぶ賭ける、また7ってことはないさ!」「来い! 7よ!」「あと100万賭けてもいいぜ、もう7はないよ! まだ帽子と、靴と、シャツもあるし、宝石もある! 妻ももってるんだ...」。証券取引所(stock exchange)というか、所持品をどんどんお金に変えていく場所のようですね。妻さえも換金される所持品みたいです。

 

 11コマ目、ついにゲームの終わりです。またしても7が出て、勝者が「やった! さあ、金を払うんだ」と無慈悲に相手に告げています。敗者は「なんてこった。キツいなこれは。たしかにおまえの勝ちだ、すっからかんになっちまった。お寒い状況ですよ、どうすりゃいいんだ...」と敗北宣言ですね。

 

 それにしても、建物から落とされる巨大なサイコロというのは、不思議な感覚ですね。登場人物は小さくて、まるでボードゲームの盤上を舞台にしているかのようです。マンガ全体を見渡してみると、サイコロが生き物みたいにころころと跳ねているみたいに見えるし、じつはこのマンガの主人公はサイコロ自体なのではと思えます。