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いたずらフィガロ

むかしのアメリカのマンガについて。

リトル・ニモと9兆ドル

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 1907年9月29日『ニューヨーク・ヘラルド』の「眠りの国のリトル・ニモ」です。

 

 進んでも進んでも高層ビルがつづいて、うんざりして座りこんでしまっているニモとインプがいます。あたりは暗くて、夜になってしまったのでしょうか。

 

 画面の左のほうからコマを横切ってきたサーチライトが、ビルの壁に「リトル・ニモの行方を情報提供した者に9兆ドル。モルフェウス王」という文字を照らしています。ニモはそれを見て「ボクたちを探しているんだ! ここから降りなくちゃ」と言っています。

 

 ニモとインプはビルを降りていきます。途中、ニモは「宮殿までの帰り道がわかるといいなあ」「この人たち、ボクたちがここにいるってこと伝えてほしいよね」「フリップがいればなあ」などとしゃべっています。9兆ドルの懸賞金が出ているにもかかわらず、ニモはこの街の群衆たちにあまり期待していないのかもしれません。

 

 ニモとインプが地上に降りると、それを指さす人たちが何人かいますね。さすがに無視できる大きさじゃないからですが、人びとの声は聞こえてきません。ニモが期待していないからなのか、街の人びとはニモの物語にからんでこないみたいです。

 

 5コマ目、ニモは「川だ! ここから出られるよ」と、高層ビル街からの脱出を喜びます。そしてそのまま川に入っていくと、6コマ目の右上のほうから、フリップがビルを破壊しながらやってきました...。「おい! 待て、待ってくれ! おれの話を聞いてくれよ!」だそうです。

 

 フリップは、森の巨人に捕まってしまっていたんですが、その後どうやら逃げてこれたようです。どうやって逃げてきたんでしょうか。ニモは「フリップが走ってきた! ほら!」と興奮しています。安堵しているのかもしれません。破壊されたビルの下にはおそらく数多の人びとがパニックだと思いますが、やはりニモはそんなことはどうでもよく、フリップが来たことのほうが大事のようです。

リトル・ニモと高層ビル街

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 1907年9月22日『ニューヨーク・ヘラルド』の「眠りの国のリトル・ニモ」です。

 

 ニモとジャングル・インプが真ん中に立っています。ふたりは巨人の姿です。前回、森に棲む巨人から逃げている途中で、いつのまにかかれらも巨人になってしまったのでした。フリップは森の巨人に捕らえられてしまって、ここにはいません。

 

 ニモとインプの周囲には、街の人々が大勢おしよせています。ニモの足下に警官たちが来たので、ニモは「ぼくたち道に迷ったんです! モルフェウス王の宮殿から来たんだけど、巨人がぼくたちのガイドを捕まえちゃって...」と訴えます。

 

 しかし警官たちはニモのことを知らないようで、「いや、この街を出てってくれないか、すぐにね、じゃないと逮捕しますよ」と冷たい反応です。群衆のなかからは「ガイドを捕まえた巨人とやらを見てみたいもんだね」とか「自分たちで巨人をなんとかしたらどうだい、あんたたちも十分大きいよ」とか聞こえてきます。

 

 ニモは、街の人たちの援助をあきらめたのか、「ここをのぼったら宮殿が見えるかな」と、近くのビルに手をかけます。警官はなおも「宮殿が見えたらできるだけすぐに出てってくれよ!」と声をかけていますが、ニモはしょんぼりもせず、がんばってビルをのぼりつづけます。フリップがいないので、自分が主体性を発揮しないと物語が進みません。

 

 ビル群は、うまい具合に階段のようにならんでいて、ニモはなんとかのぼりつづけることができます。とはいえニモから見れば自分の背丈ほどもある段差をのぼらなければいけないので、けっこうハードだとは思います。巨人になったことで筋肉も発達したんでしょうか。あるいは夢のなかなので重力が弱いとか。

 

 2コマ目から5コマ目にかけて、ニモはどんどんのぼります。ニモの紙面上の位置もすこしずつ上に置かれ、ニモの白いからだが右上がりに向かっているので、読者は視線を横に流すだけで「おっ、ニモがんばってるな」とわかります。

 

 それに呼応するように、ニモのセリフも「迷子になっちゃったな」「けどここをのぼれば、どのあたりかわかると思うんだ」「宮殿のひとに合図できるはずだよ」と、前向きなものです。

 

 しかし6コマ目、「うう、てっぺんはまだかなあ? 疲れてきちゃったよ」と弱気の発言が出てしまいます。そして次のコマで、ビルが無数に建ちならぶ透視図法的空間にやってきました。空間の奥にはビルしかなく、宮殿が見えるものと思ってがんばってきたニモは「ひゃあ、見えないよ! フリップがいてくれたらなあ!」と、先行きの見えなさにがっかりしてしまいます。

 

 インプは、5コマ目からずっと汗をかきっぱなしです。ジャングルにいた頃には見ることもなかった光景ですから、もしかしたらこの汗は体力的な問題というより精神的な不安を示しているものかもしれません。宮殿のなかではいろいろいたずらしていたインプですが、高層ビル街では緊張するのかな。あるいは、ひとがぜんぜんいなくなってしまった孤独がつらいのか。

レアビットとルイス公

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 1905年11月18日『ニューヨーク・イブニング・テレグラム』の「レアビット狂の夢」です。

 

 「ルイス公(Prince Louis)が街で発砲するなんて信じられない。銃声が聞こえたが」。寝床につく男がひとりごとです。するとすぐに、巨大な銃弾が窓ガラスをつきやぶって部屋のなかに入ってきました。「やはりか。イギリス軍艦が13インチの砲弾をぶっ放してきたぞ」。

 

 このルイス公は、5コマ目の「バッテンベルク(Battenberg)」という発言とあわせて考えれば、当時のイギリスの軍人、ルイス・アレグザンダー・マウントバッテン(Prince Louis of Battenberg - Wikipedia)で間違いないでしょう。もとはバッテンベルクという名前でしたが、第一次大戦時にドイツ語風の「バッテンベルク」から英語風の「マウントバッテン」に改名しました。

 

 ルイス公はドイツ系の人ですが、イギリス海軍のトップにのぼりつめました。出世欲の強い人だったみたいです。そうした性格は当時すでに世間に知られていたのかもしれませんね。

 

 部屋のなかに砲弾を撃ち込まれた男は、砲弾を窓のそとへ投げ捨てようとしながら「ルイス公は、やろうと思ったらおまえたちをめちゃくちゃにできるんだぞって言ってたな」とつぶやいています。砲撃の理由として、なにか思い当たることがあるのでしょうか。ルイス公をキレさせたんですかね。

 

 砲弾を投げ捨てる間もなく、新たな砲撃が次から次へと行われます。男は「アンクル・サムはすごく忙しくなるだろうな」などと悠長にかまえていますが、砲撃がいっこうに止まないので、さすがに最後はもうなにもいえず、コマのなかが砲弾で埋め尽くされていくのをどうすることもできません。

 

 ところでこのマンガは4コマ × 4列でできていますが、全体を見渡してみると、砲弾による壁の穴が列ごとに増えていく様子がすぐにわかります。各列の横の連続性が強調されているように思います。また、それぞれの穴もコマのなかでバランスよく開けられていて、白い部屋のなかで黒い穴がよいアクセントになっています。

レアビットと馬にけとばされる男

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 1905年11月15日『ニューヨーク・イブニング・テレグラム』の「レアビット狂の夢」です。

 

 ひげを生やした男がいます。左の袖を見ると、ところどころ破れていますので、あまり裕福ではなさそうです。ホームレスかな。かれのひとりごとは、「ピッツバーグ行きの貨物列車をつかまえんとなって思ってたけど、王子さまからの手紙によりゃあ、おれにホースショーに行ってもらいたいのか。そんなら行かなくちゃな」です。王子さま...イギリスあたりから王子さまが来てるんでしょうか。

 

 というわけでホームレスの男は、ホースショーにやって来たようです。警官らしきふたりが「あいつ知ってるか?」「ああ、女性騎手の審判で有名なんだ」と話していまして、その界隈では知られた人物のようです。かれは「会場が満員じゃないなら、取りしきるのはごめんだ。おれの奉仕はすごく重要なんだから、座席を無駄になんかできねえだろう」と自信たっぷりです。

 

 男は会場に到着し、すでに競技場のなかにいます。むこうから馬を連れたひとがやってきています。観客席からは「かれがホースショーを考案したんだ」と聞こえてきて、さらに大きな話になってますね。ホームレスの男は「おい、下僕ども! じっとしてるんだ! 聞こえないのか?」と、むこうから走ってくるひとに対してでしょうか、馬から離れるよう指示しています。

 

 その後、男は馬のちかくに立ち、「みなさんにこうしてご挨拶できることをありがたく思います。ではこれから、このサラブレッドを見ていきましょう」とうやうやしく述べます。馬の品評をはじめるみたいですね。

 

 しかし5コマ目、馬は後脚で男をけとばします。「こら! おとなしくしなさい!」。男はめげずに「この馬には優れたところがじつに多くありますな」と馬の品評をつづけていますが、馬は今度は、かがむ男の顔を前脚で踏みつけます。

 

 男は「15セントほどよこせって言ってるのかもしれんな、だけど...」と、賄賂の要求を感じているようですが、あげる気はないようですね。すると馬はムカついたみたいで、うしろの両脚で男を蹴りあげます。それで目が覚めたんでしょう。夢オチ場面では、警官がホームレスを警棒でつついていますね。「起きろ! ここを立ち去るんだ!」と怒鳴っています。

 

 ところで同時代には、フレデリック・オッパーによる And Her Name Was Maud という、ラバが農夫を蹴りあげる人気マンガがありました(And Her Name Was Maud - Wikipedia)。動物を支配してると思っている人間が、その動物に痛めつけられるというのがおもしろかったんでしょうか。でもホームレスが痛めつけられるのはかわいそうですね。

 

 オッパーのべつのマンガ Happy Hooligan でも、主人公の浮浪者が馬に蹴りつけられているエピソードがあります。まぬけそうな男が動物にまでバカにされる、という種類の笑いがいわば「鉄板」だったのだと思います。

リトル・ニモとかれを呼ぶ声

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 1907年9月15日『ニューヨーク・ヘラルド』の「眠りの国のリトル・ニモ」です。

 

 前回、ニモとフリップとジャングル・インプは、お姫さまたちと別れて行動をとるようになりました。モルフェウス王に会うつもりが、インプがじゃまばかりしてなかなかかなわず、お姫さまが泣き出してしまったので、ニモとフリップが気を利かせて「会って来なよ、待ってるから」とお姫さまを送り出したのでした。

 

 その後かれらは、宮殿の柱が立ちならぶ場所で待っていると、いつのまにかあたりが森になっていて、木々のむこうから赤い巨人がふたり現われます。ニモとインプはそれに気づいて逃げ出しますが、フリップは巨人たちに気づいていない...前回はそんなところで終わりました。

 

 今回の冒頭、フリップはすでに巨人にとらえられています。「聞けよ! ちょっと待てって! 走るなってば!」とフリップは叫びますが、ニモとインプは振り返ることもなく走っていきます。「聞いてなんかいられないよ!」。

 

 2コマ目、逃げるふたりは森を抜けます。インプはかれの言語でなにかしゃべっていますが、なんて言ってるんでしょうね。「引き離したぞ!」かな。ニモは「助けを呼んでくる!」と言ってます。画面奥には巨人がなおも追いかけてきて、ひとりは「おれからは逃れられないぞ!」とすごんでいます。こわいですね。引き抜いた丸太を片手でつかみながら走ってきてますからね。

 

 ふたりはなおも走りつづけ、ニモは「助けて! だれか助けて!」と声をあげます。しかし、3コマ目は様子がおかしいです。インプの足の先には、干し草用のフォークをもってる男性がいて、なにかを運んでくる女性もいて、ニワトリたちがいます。馬が荷車を引いてあわててもいますね。農作業の人々や動物たちはとてもちいさく描かれているのですが、かれらがちいさいのではなく、ニモとインプが巨大化してしまったのですね。御者こそ「助けて!」と言っているようです。

 

 4コマ目はさらに不思議です。ニモとインプは住宅街にやってきましたが、この住宅街の色調が黄色優勢になっていて、それだけニモとインプのカラーリングが目立ちます。もしかしたらこれは、夕暮れ時、ということなのかもしれませんが、走るニモとインプの影が地面にないということもあり、かれらは背景に浮かんで見えます。

 

 5コマ目は薄い青のトーンで(夜かな)、これもニモとインプの色が目立っている(もちろん、コマの中央に大きく描かれているせいで目立っているということもあります)。ただ、今度は影が描かれているので、かれらがどこに立っているのかわかります。街の中心部っぽいですね。画面左下の大きな建物には「キャンディ・おもちゃ」と書かれていますので、商店街なのでしょう。

 

 ニモはとつぜん「だれ? だれかがぼくを呼んでる!」と、画面右上のほうを見つめます。だれなんでしょう。夢オチの場面では「ニモ、はやく寝なさい!」と家族のだれかに言われていて、ママかパパがニモを呼んでいたわけですが、眠りの国ではだれに呼ばれてるんでしょうね。つかまったフリップのことも気になるし、次週が待ち遠しいです。

 

 あらためて各コマを見比べてみると、ニモとインプは徐々にからだが大きくなっています。3コマ目では中景にいたのが、4・5コマ目では前景に描かれていて、遠近法的な点でからだが大きくなっているというのもありますが、と同時に、前景に描かれている2コマ目よりも中景の3コマ目のニモたちのほうが大きい。

 

 また、地上の人々や建物の大きさと比較してみても、3コマ目のニモたちは小屋よりすこし大きいくらいだったのが、5コマ目では四五階建てのビルくらいの大きさになっています。もはや赤い巨人たちと同じくらいの背の高さになっているのかも。

リトル・ニモと柱廊の巨人

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 1907年9月8日『ニューヨーク・ヘラルド』の「眠りの国のリトル・ニモ」です。

 

 4コマ目以降、立ちならぶ柱がだんだんと木々に変化していく様子が大胆に示されています。まずはその前段階をみていきましょう。

 

 ニモたちはモルフェウス王に会うためにこの宮殿へやってきたわけですが、いつもいつもジャングル・インプがじゃまをして、なかなか会うことができません。前回はジャングル・インプが部屋の照明を消してしまい、あたりがなにも見えなくなったのでした。

 

 今回の冒頭では、もはや王様の姿はありません。ジャングル・インプの教育係であるフリップは「彼女をお父さんに会わせてやってくれよ、おれらは外にいるからさ」と、責任を感じているような発言です。ニモも同調し、「そうだね、戻ってくるまで、ぼくたち外で待ってます」とキャンディに告げています。

 

 ドクター・ピルはお姫さまをエスコートします。「泣かないでくださいませ」。お姫さまは「パパに会いたいのに...」と顔をおおっていますね。あの強気なお姫さまが泣いてしまうとは。苛立ちや悲しみが頂点に達してしまったんでしょう。

 

 そんなわけで、お姫さまとドクター・ピルは退場します。キャンディも「すぐ戻るから着替えておいて!」とニモに言い残し立ち去ります。かわりに、ニモたちの前には背の高いひとがやってきて「こちらです、舞踏会用の服に着替えてください」と話しています。

 

 3コマ目、さっそく着替えました。ピエロのような服で、正装とは思えませんね。フリップも「これが舞踏会用の服なのかよ」と怪訝そうで、ジャングル・インプも笑ってます(かれは着替えないのか)。

 

 着替えを用意していた背の高い男は「あちらの柱廊でお待ちください、迷子にならないように!」とニモたちに伝え、着替えたニモたちは言われるまま柱廊にやってきます。それが4コマ目ですね。

 

 フリップは「この柱は黄金か、それともただの真鍮かな」と、柱が何でできているかを考えられる余裕がありますが、ニモは「わかんないけど、ここはすぐに迷子になりそうだね」と不安げです。たしかに、ニモたちが見上げているあたりは縦線が密集していて、柱と柱の境目がわかりにくくなっています。空間把握がやりにくい場所ですね。

 

 「迷子! ねえよ! 行ってみようぜ」「むこうでお姫さまを待つよう言われてるよ、戻ろうよ」。フリップが画面右にどんどん進もうとするのを、ニモが止めようとします。5コマ目は4コマ目とくらべて、色合いがすこし青みがかっています。また柱の線が直線ではなく、がさがさ揺れています。床には短い縦線がたくさん描かれていて、草のようですね。ジャングル・インプだけがそれに気づいています。

 

 6コマ目になるとさらに青みを増し、柱には茶色の筋が描かれています。木々になってきました。フリップはなおも「行こうぜ、すぐに戻れるさ、怖じ気づくなよ!」と、べつの場所に行こうとしていますが、ニモは「これ以上遠くには行けないよ、戻ろうよ」と怖がりはじめています。

 

 ジャングル・インプは柱の根元をなでていますね。景色の変化をさわって確かめようとしているのか。この景色の変化は、ニモの不安が引き起こした幻覚であるわけではなく、客観的に起こっている現実なのだということが、ジャングル・インプのしぐさによってわかります。

 

 7コマ目、赤い肌の巨人があらわれました。「ぼく帰る! なんかやってくるよ!」。ニモは一目散に画面左に走っていきます。フリップは「どうしたんだ、なにも来てねえよ」と言っていますが、ジャングル・インプも驚いていますので、やはりこの巨人たちは実際にここにいるようですね。この森に棲んでいるんでしょうかね。こんなに木が密集している場所に、いづらくないのかな。

 

 ところで、これ以降「リトル・ニモ」の物語は、ニモとフリップとジャングル・インプの三人がメイン・キャラクターとなります。お姫さまにかわってジャングル・インプがレギュラーになるわけです。大変なことですね。これまでは、お姫さまがリーダーシップを発揮して厄介ごとを避けようとしていましたが、そのブレーキ役のお姫さまにかわりアクセル役のジャングル・インプが入ってくるのですから。三人の少年の珍道中が楽しみです。

レアビットとクラップス

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 1905年11月11日『ニューヨーク・イブニング・テレグラム』の「レアビット狂の夢」です。

 

 ふしぎな絵ですね。大きなサイコロがふたつ、「証券取引所」と書かれた建物の屋上から落とされています。屋上にはふたりいますね。

 

 「おまえ、おれとおなじ額を賭けてばっかりだな、今度は1000か、おまえもう50万おれに借りてんのよ? わかってんの?」「わかってるさ、おれは何度だって同額を賭けるぜ、次の1000こそ勝つ!」、という会話です。

 

 投げたふたつのサイコロの和が7になれば勝つ、というルールのゲームは「クラップス(craps)」と呼ばれます。わたしも詳しいルールは知りませんが、カジノで人気のゲームらしいですね。

 

 サイコロが落とされました。むかって左の男が「来い! 7だ! 来い!」と声をあげます。サイコロはまっすぐ落ちて、見事、1・6が出ました。「っしゃあ! 勝った! もっとやるか?」「やるとも、まだ金はある、流れはかわるさ」。

 

 サイコロはクレーンで引き上げられ、次のゲームに入ります。負けたほうが「次は10000だ」って言ってまして、賭け金が10倍ですね。相手は「もしこれで勝てば、おまえから20000勝ったことになるな」ということですが、負けてるほうは意に介さず、ゲーム続行です。

 

 「来い! 7だ! 7! 金はおれのものだ!」。そして7コマ目、5・2が出てますね。またしても7でした。「また勝った! 7だ! どうだい?」「くそう、残念だ。あのサイコロ、いんちきなんじゃないのか。さあ次だ」。サイコロの不正を疑いつつも、まだやるつもりですね。破滅への道をひた走ります。

 

 「おれはおまえを破産させたくないんだよ」「気にするな、さあ、次こそ運命を左右するときだ。おれは全財産の500万を賭ける」。大勝負に出ました。

 

 「やるぜ、こんどは500万なんだな?」「サイコロを転がすんだ! 有り金ぜんぶ賭ける、また7ってことはないさ!」「来い! 7よ!」「あと100万賭けてもいいぜ、もう7はないよ! まだ帽子と、靴と、シャツもあるし、宝石もある! 妻ももってるんだ...」。証券取引所(stock exchange)というか、所持品をどんどんお金に変えていく場所のようですね。妻さえも換金される所持品みたいです。

 

 11コマ目、ついにゲームの終わりです。またしても7が出て、勝者が「やった! さあ、金を払うんだ」と無慈悲に相手に告げています。敗者は「なんてこった。キツいなこれは。たしかにおまえの勝ちだ、すっからかんになっちまった。お寒い状況ですよ、どうすりゃいいんだ...」と敗北宣言ですね。

 

 それにしても、建物から落とされる巨大なサイコロというのは、不思議な感覚ですね。登場人物は小さくて、まるでボードゲームの盤上を舞台にしているかのようです。マンガ全体を見渡してみると、サイコロが生き物みたいにころころと跳ねているみたいに見えるし、じつはこのマンガの主人公はサイコロ自体なのではと思えます。