いたずらフィガロ

むかしのアメリカのマンガについて。

リトル・ニモと太陽のしつけ

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 1907年8月11日『ニューヨーク・ヘラルド』の「眠りの国のリトル・ニモ」です。

 

 ニモたちはモルフェウス王がいるサマー・パレスへむかっているところです。ですが冒頭、フリップが電話で「もしもし、おじさんかい? あのさ、太陽をもってきてほしいんだよ、眠りの国をぜんぶ溶かしてもらいたくて、うん、やれそう? わかった」と話しています。どうしてそんなことをするのか。

 

 ニモはキャンディとともに、ジャングル・インプの教育係になっています。「おりこうにしててよ!」「そうだよ、きれいなところへ行くからね」と、いたずら好きのジャングル・インプをどうにか静かにさせておきたい。一方、お姫さまは「そのインプに話しかけてどうするのよ? ことばがわからないのに!」といいながら、すでに歩きはじめようというところです。ちょっとイライラしてるというか、面倒はごめんだ、とにかくわたしは先に行きたい、という気持ちがよく表れています。

 

 1989年に公開された日米共同製作のアニメ『NEMO/ニモ』では、お姫さまがだいぶ気の強い女の子として描かれています。原作マンガのお姫さまがあまり表情を崩さないのとは対照的に、1989年アニメのお姫さまはこわい顔をして怒ります(たしかフリップをひっぱたくシーンがあったような)。けれど、原作のマンガのお姫さまも、言動の内容からするとやっぱり気丈な感じがあって、1989年アニメはその点を強調しているんだなと思います。

 

 さて、一行が王様のところへむかっている途中、フリップがジャングル・インプに話をしています。「おまえにわからせてやるぜ、おれがどんなに危険なやつかってことをな。ここの連中はみんな知ってるんだ、おれがすべてを終わりにできることをな」。えええ、そういうことか...。恐怖心をうえつけて、しつけをするんですね。ちなみにニモたちはまったく気づいていません。

 

 「おれのおじさんは夜明けの番人なんだ、おじさんが太陽をもってきたら、眠りの国はぜんぶ溶けちまうんだ、おまえもな! わかるか? 溶けるんだぞおまえ!」。ジャングル・インプは、わかってないかもしれませんね。お姫さまが「フリップはなにを言ってるのかしら、インプはことばがわからないっていうのに」といってるし。

 

 それにしてもお姫さまは、インプとのコミュニケーションの不可能性をまたも強調しています。インプを仲間だと思っていないのでしょう。フリップの教育によって、インプがいつか仲間として認めてもらえる日がくるのか、今後の見どころです。

 

 フリップが「おまえが紳士だったら、おれはそんなことしないさ」と説教をするなか、一行はおもしろい装飾の入った通路を歩きつづけます。「見て、休憩所についたよ」「わ、おおきくない?」「パパの喫煙所なのよ」。

 

 5コマ目に見えるのは、なにやら柱や階段が入り組んだ場所ですね。パースがいびつな感じがする。フリップがまもなく夜明けを招くことの暗示なのかどうかはともかく、フリップは高らかに叫びます。「出てこい太陽! ぶちこわせ! 思い知るがいい、おれさまの力を!」。

 

 もちろんみんなあわてますが、時すでに遅し、6コマ目が太陽のまばゆい光におおわれます。ニモ以外は描線がうすくなってますね。ジャングル・インプは「ギグ、ギャグ、ゴ、モッコ!」とわれわれにはわからないことばを発していますが、フリップのほうをむき、困った顔をしてひざまずいているので、どうやらこれはしつけに効いたみたいですね。フリップは自ら消えながら「どうだ! これからはおれを丁重に扱うんだぞ」と尊大にふるまっています。

 

 フリップは自分が消えてしまうことが怖くないんですかね。どうせまた復活するだろと思ってるんだとしても、フリップだけが怖がっていないのはどうしてなんだろう。