いたずらフィガロ

むかしのアメリカのマンガについて。

イエロー・キッドとダイム・ミュージアム

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 1896年10月4日『ニューヨーク・ワールド』の「イエロー・キッド」です。

 

 イエロー・キッドがリズと踊ってます。寝巻きに「リズとワルツできちゃった」って書いてますね。すぐ右側では別の男女も踊っていて、楽しげな雰囲気です。

 

 一方、画面左下には女の子ふたり、キティ・デュガンとモリー・ブローガンが、イエロー・キッドたちを見つめています。嫉妬してるんだろうか。キティの帽子には「ミッキーのやつ、自分のサイズの娘を選ばないのはなんでなのよ(It's a wonder dat Mickey wouldn't take a girl his size)」と書いてますね。たしかにキティは、リズに比べればイエロー・キッドと同じくらいの背丈かな。嫉妬だな。

 

 中央の少年はハーモニカを吹いてるんだと思います。その音色に合わせてイエロー・キッドたちは踊っているのでしょう。ただちょっと気になるのは、右奥にいる成人男性です。となりに大きな四角いものを設置していて、おそらく彼の道具だと思うんですが、これは手回しオルガンなのではないか。イエロー・キッドたちはその曲を聞いているのかもしれない。

 

 そのとなりには射的場があります。看板には「的に当てるのが嫌ならなんでもいいから撃ってごらん(If ye don't like de target shoot at any ole ting)」とあって、実際、ベランダで新聞かなにか読んでるおっさんのおしりに撃ってるこどもがいます。その弾はおしりに当たって向きを変え(おっさんは無事)、さらに上の階のイエロー・キッドっぽいこどもに直撃しています。かわいそうに。

 

 アパートの上からいつも飛び降りてる少年は、今日は傘をパラシュートにして、わりと安全に下りてきていますね。オウムが「あのこどももパラシュートを持つようになったか(It's time that kid got that parachute)」と言っています。その上では少年が綱渡り中ですね。また、オウムの下の少年は「なんてひどい跳ね返りなんだ!(Gosh! But what a bully carrom shot)」と言っていて、これはおっさんのおしりのことでしょう。

 

 画面左上の凧には「来週ぼくたちに会うまでちょっと待っててね、ぼくたちは忙しいんだ(Jist wait till ye see us next week we are always busy)」とあります。この凧をあげているのはオウムの下の少年ですので、ぼくたちというのはきっとホーガン横丁のこどもたちのことでしょう。

 

 実際、彼らは次週から忙しくなります。というのも1896年10月以降、「イエロー・キッド」は『ワールド』紙と『ジャーナル』紙の、ふたつの新聞に掲載されるようになるのです。アウトコールトが『ワールド』に描く「イエロー・キッド」はこのマンガが最後で、次週から『ワールド』の「イエロー・キッド」はジョージ・ラクス作のものになります。アウトコールトは『ジャーナル』に移籍し、そこで「イエロー・キッド」を描くようになります。

 

 凧の下には旗が風になびいていて、そこには「バーナムはいません(Barnum ain't in it)」と書かれています。当時最も有名なサーカスの興行主、P・T・バーナムのことですね。ここにあるテントは「ミュージアム&ヴォードヴィル」で、つまり見世物小屋です。

 

 キャプションには「ホーガン横丁の素人ダイム・ミュージアム」とあります。ダイム・ミュージアムとは、1ダイム(=10セント硬貨)で入れるミュージアムという意味で、興行主がどこからか集めたさまざまな珍品、およびいわゆるフリークが展示されている場所です。

 

 ただ、ホーガン横丁のダイム・ミュージアムは、実際には1セントで入れるようです(Admishun 1 cent とあります)。だからペニー・ミュージアムかな。看板にはハエ人間とかガイコツ女とか、いろいろ書いてあります。こどもたちは、だまされたと思って中に入ってみて、案の定だまされて出てくるんでしょうね。