いたずらフィガロ

むかしのアメリカのマンガについて。

レアビットと葬儀屋

f:id:miurak38:20200604223259p:plain

 1906年3月20日『ニューヨーク・イブニング・テレグラム』の「レアビット狂の夢」です。

 

 すごく太った男性が今回の主人公です。往来で出会った友人に「その体は大丈夫なのか」と話しかけられて、男性は「いやもうダメなんだ、長くない」と、自らの死を受け入れ始めています。

 

 そのすぐうしろで、かれらの会話を聞いていた男が主人公に近づき、2コマ目でこう言います、「わたしは葬儀屋です。これ名刺です、ご満足いただけるかと」。葬儀屋が死期を悟った男性に営業しているのですね。

 

 主人公の男性は笑いながら帰っていきますが、葬儀屋はそのあとも主人公から目を離しません。毎コマに顔を出して、物陰から男性を覗き見しています。

 

 死際の男性は、「あいつ、このあたりをうろついてる気がする」と、葬儀屋の視線をなんとなく感じつつ、同時に体の調子が急激に悪くなっていきます。1コマ目にくらべると、7コマ目の男性はすごく痩せ細ってしまっていて、同一人物とは思えません。

 

 男性は「横になろう、もう歩けない」と言って部屋に入るところで、振り返ってみると、やはり葬儀屋がこちらを見ています。「あんな商魂たくましいやつは見たことがない」と、もはや感心していますね。でも「わたしが部屋に入ればもうこちらを覗くことはできまい」と、扉を閉めます。

 

 しかし葬儀屋はあきらめません。9コマ目、扉の上の窓からベッドの男性を見ています。この9コマ目の葬儀屋のさりげない顔! 男性は「頭がおかしくなりそうだ、使用人を呼ぼう」と、ベルのスイッチを押しています。

 

 そこでお目覚めです。使用人が扉のところで「お呼びですか?」と立っていて、もとの太った姿に戻っている男性が「いや、なんでもないんだ、気にしないでくれ」と答えています。今まで見ていたのが夢だったのか幻覚だったのか、不確かな気持ちにさせる10コマ目です。