リトル・ニモの新たな旅のはじまり
1908年3月15日『ニューヨーク・ヘラルド』の「眠りの国のリトル・ニモ」です。
1コマ目を見ると、前のエピソードとの連続性があるようには見えないんですが、ともかく翌日曜日に掲載されたものです。ニモたちは円盤の上に乗っています。
するとすぐにこの円盤がルーレットのように回りはじめます。ニモたちは飛ばされないように円盤につかまりたいのですが、「つかまるものがない!」とニモが叫んでます。
遠心力に抗えないニモたちは、6コマ目でついにみな手を離してしまいます。「じゃあなニモ! また会えるといいな」「そんなこと言わないでよ! こっちに来れないの?」
というわけで、ニモはプリンセスに会えるどころか、いままでずっと旅を共にしていたふたりと、まさかの離れ離れとなってしまいます。
ニモは落ちながら、「もうおしましだ、お家に帰りたい」「パパ、ママ、助けて!」と、わが家のことを思うのですが...9コマ目、注目してください、いつのまにかコスチュームが変わっています。「あれ、どこでこの帽子とコートを?」「ステキなコスチュームになってる! なんでだろう」
そうしてニモは、干し草の山に落ちます。「幻惑の間」を脱出し、また無事に着地できたのはよかったですが、いったいここはどこなのでしょう。次回からはニモのひとり旅がはじまります!
リトル・ニモと3Dダンジョン
1908年3月8日『ニューヨーク・ヘラルド』の「眠りの国のリトル・ニモ」です。
ウィザードリィの3Dダンジョンみたいなところにやってきました。ニモたちは、もう少しでこの「幻惑の間」を出られそうだと期待しながら、通路を歩いています。
2コマ目で、壁の穴から突風が吹き込み、ニモたちの帽子が飛ばされます。フリップにいたっては(育毛剤のために生えていた)あごひげまでなくなってしまいました。いつもの格好に戻りつつあるので、やっぱり「幻惑の間」を出られるかもしれないという期待を、読者も持つことができます。
ところがそう一筋縄ではいかず、ニモたちはこのあとも、通路に吹き込んでくる突風に困惑します。4コマ目では床からの、6コマ目では天井からの風のために、ニモたちの体が翻弄されます。
突風の次は、板がニモたちを襲います。8コマ目で壁の板がバラバラとはがれてニモたちの頭を打ったあと、9〜11コマ目で天井の一部が振り子のように回転し、ニモたちを前へ押し出します。
押し出された先には外の景色が見えます。今度は90° 傾いていたりしないようですので、いよいよ「幻惑の間」もおしまいかな...と読者に期待させておいて、なんと次回、思わぬ展開が待ち受けています!
レアビットと食べたら死ぬパイ
1906年2月22日『ニューヨーク・イブニング・テレグラム』の「レアビット狂の夢」です。
浮浪者と婦人が会話をしています。浮浪者が「この炭にかける塩をくれませんか、腹がへってしまって」というので、婦人は「まあまあ! もっといいものを持ってきましょう」と、なにかパイのようなものを浮浪者に与えます。
浮浪者は「こりゃうまい」ともぐもぐ食べるのですが、4コマ目から様子がおかしくなってきます。「ぎゃあ! 気をつけろ、緑のヒヒが自動ピアノのかげから覗いてるぞ」と、とつぜん意味不明なことを言い出します。
「金を取るなんてできねえ、こっちに来な、タバコをやるからよ! うああ! だれかあそこで歌ってるな、あいつらみんな集まって行くのか」...たぶんそんなことを言っています。婦人は当然のことながら、気が狂った相手を見て驚いています。
浮浪者はその後、わめきながら高く跳ね上がったかと思うと、宙返りして頭を地面に叩きつけ、死んでしまいます...。このエピソード怖すぎます。おそらくパイのなかに幻覚成分が入っていて、浮浪者は脳を蝕まれ、わけもわからぬまま恐怖のうちに死んでいったんですよ、怖すぎるでしょ...。(妄想)
婦人は気が動転したでしょうが、さらに悪いことに、周囲の人たちに「婦人が乞食を殺した」と思われてしまいます。「なにで殴ったんだい?」と聞かれてますね。善意のほどこしがこんな結果になってしまうとは。マッケイの心の闇を見た気持ちです。
レアビットと掛け布団
1906年2月20日『ニューヨーク・イブニング・テレグラム』の「レアビット狂の夢」です。
女性が「足が寒い...」と言って、眠れないでいます。冷え性でしょうか。彼女は足に掛け布団がかかっていないと思ったのか、足のほうを重点的に布団で覆おうと、体を起こします。
それでまた横になると、こんどは肩が布団から出てしまいます。「肩が冷たいわ...布団、ちゃんとまっすぐになってるのかしら」。この気持ちすごくわかる。
どうでもいいですが私はこどものころ、寝ているときもつねに布団がまっすぐになっていないと落ちつかず、何度も夜中に起きてベッドメイキングをしていたことがあります。寝返りをくりかえしているうちにどうしても布団がずれるのですが、それが我慢できなかったんですね。神経症だったんだろうか。
肩が出てしまった彼女は、当然のことながら布団を上に持ってくるんですが、そうすると今度は足が出る。また体を起こして足に布団をかけ、横になると、今度は肩だけでなくお腹のあたりまで布団から出てしまっている。
つまり掛け布団がどんどん小さくなってしまっています。彼女が体を起こしたとき、それにあわせて布団が足元のほうに寄ってしまうわけですが、そのタイミングで布団が縮んでいます。絶妙ですね。
掛け布団は、最終的にハンカチほどの大きさまで縮みます。「眠れない! 凍えそうよ! どうしたらいいの?」
この夢の場所は、目覚めたときの場所とまったく同じベッドですので、まるで彼女が眠れずにベッドのなかで幻覚を見ている様子を描いているとも言えます。このつづきが読みたいです。
リトル・ニモと回転の間
1908年3月1日『ニューヨーク・ヘラルド』の「眠りの国のリトル・ニモ」です。
繊細な印刷ですね。黒い輪郭線のニモたちが、青い輪郭線の背景の上に浮いています。「幻惑の間」のふしぎな様子がみごとに描かれています。
左に90° 傾いた空間に来てしまったニモたちは、このままでは元に戻れないと思ったのか、来た道をひきかえします。それが1コマ目で、フリップを先頭に、ニモたちは画面手前にやって来ます。
すると空間がさらに左に傾き、ニモたちは左側にすべり落ちてしまいます。さらに空間は回転をつづけ、1〜5コマ目でちょうど180° まわりました。
フリップはこれまで、なんとか自力で出口を見つけ出そうとしていたのですが、この回転にはさすがにまいったのか「次にだれかを見かけたら王様を呼んでもらって、行儀よくします!」と弱音を吐きます。ニモは「はじめてまともなこと言ったな...」と感心(?)しています。
空間はあと90° まわって、7コマ目でようやく正常の位置になりました。ニモはこれで3週連続、ベッドから落ちて目覚めています。
リトル・ニモと左に90°
1908年2月23日『ニューヨーク・ヘラルド』の「眠りの国のリトル・ニモ」です。
前回は、上下が逆さまになった空間で苦しんでいたニモたちですが、そこをなんとか抜け出ると今度は空間が90° 傾いているところにやってきました。つまり今回は、壁が床になっています。
読者は、首を左に傾ければ、建築物の一般的な内装を確認することができます。ニモたちの左側が天井に、右側が床に見えます。
難所がさっそく2コマ目にあらわれます。フリップが「廊下が上下に走っていてクロスしてるぞ! 下に落ちるなよ!」と教えてくれています。こわいですね。
というわけで3コマ目、ニモたちは、下に向かう廊下に落ちないよう端のところを少しずつ歩いていきます。
そうやって歩いていくと、先導するフリップが4コマ目で「日の光が見えたぞ!」と大声をあげます。おお、これでようやくこの「幻惑の間」から出られそうですね。
ところが、期待しながら進んで行った先にあるのは(7コマ目)、90° 傾いている外の世界でした。いくつかの塔が右から左に伸びています。外の世界も傾いたままとなると、はたしてニモたちはどのようにして元の世界に戻れるのでしょうか...。
レアビットと電話に吸い込まれるおじいちゃん
1906年2月15日『ニューヨーク・イブニング・テレグラム』の「レアビット狂の夢」です。
こどもが泣いていて、大人の男が電話口に立っています。「ジェームズ・ジェフリーズさんをお願いできますか、すぐに話したいことが...え、おまえビッグ・バーリーなのか? うちの孫を殴ったそうだな」。
つまり、殴られて泣きながら帰ってきた孫がかわいそうなので、おじいちゃんは孫を殴った相手に、電話で文句を言おうとしているわけです。「何か言わなくちゃならないことがあるだろう、この野郎が...」。
すると、電話の送話器から相手の拳が飛び出してきて、おじいちゃんを殴ります。「この野郎、もう一度やってみろ!」と凄むおじいちゃん。
その後、おじいちゃんと電話相手の喧嘩がつづきます。相手の腕はワイシャツとジャケットの袖をまとっていて、相手は孫の同級生というより大人なのかなとも思うのですが、もしかしてビッグ・バーリーというのは大人並みの体つきをしたこどもなんでしょうか...。
おじいちゃんは結局、相手に頭をつかまれたまま、電話機の向こうに連れていかれてしまいます。「おまわりさん! 人殺しが! 助けて! 火事だ! おじいちゃん! パパ! ママ! だれか!」 完全にパニックを起こしてます。
「あの子にレアビット食べさせないでって言ったでしょう、聞いてよあのわめき声...」と、寝室の外から親の声がします。だれがだれに言ってるのかわかりませんが、おじいちゃんがレアビット食べさせたのかもしれないですね。